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  未来少年ムサシ14  最終章 ムサシはいずこ


 5人は黙って部屋を見渡した。
 部屋の奥の方へと進み壁の一点を見つめた。
 しばらく沈黙が続いた。
 5人の目には光るものがあった。
 お互いに見つめ合い、又壁の一点を見つめていた。
 誰も言葉が無かった。

 囲碁クラブ設立の初めから今日まで60年間のクラブの千を超えると思えるほどの子供達の写真が、壁一面にびっしりと貼ってあったのだ。
 「ヤッタネー、こんなにいっぱいの子供達が碁を習ったんだ」
 天然が沈黙を破った。
 「ムサシ君の精神が立派に生きたんだ」
 IQが言った。
 「大した奴だったよ」
 ガンタツが言った。
 「ムサシに会えて、本当に良かったなあー」
 モアが言った。
 「ムサシ君のおかげね、今の私達がこんな平和な時代を生きてこられたのは」
 サッチャーが言った。

 「そうなんだよ、あの時は大変だった。一触即発だったからなあー。私が調度、外務省の渉外課長の時だった。アメリカ、ロシア、中国の国益が真正面からぶっつかるって、どこも一歩も引かなかったんだ。その時の日本の首相、大海さんは偉かったなあー、日本の国家予算の半分を世界の貧国を救う為に放出しますと一番に宣言したんだよ。それに引張られる様にイギリス、フランス、ドイツの主要国が名乗り出たんだね。事務レベルで話をしたら皆本当に分かりがいいんだよ。バランスを取ること、やりすぎないこと、じっと辛抱する事、その様な政策を良く理解しているんだよ。頭が固いのは政治家だけさ。あとで分かったんだが、みんな碁の素養があってね、みんなで大笑いしたんだよ。戦争は碁盤の上でやると楽しいよ、痛くないよってね。そんなことができたのも元々は国民の支持があったからなんだよ」
 「さすが、IQだ、良くやってくれたよ」
 ガンタツが大喜びして言った。
 「いや、いやオレの力なんて・・・・・・ムサシのおかげさ。アハハハーー」

 「みんな!」
 何か思い出した様にIQを見つめた。
 「みんな、も、もしかして聞いたことあったかも知れないけど、ムサシ君はあの時、60年後の未来から来たと言う話が出たことがあるんだ」
 「うん、オレも聞いたことがある」
 ガンタツが言った。
 「私もよ」「私も」
 「オレもあるけど、決してそのことを口にしてはいけないって言われたんだ」

 「そうか、みんなもそうだったのか。それでオレは一度校長先生につめよったことがあったんだ。ムサシ君が忽然といなくなった後にね。未来に帰ったんじゃないかって」
 「それで」「それで」
 「校長先生は返事しなかった。でも秘密は死んでも守ります。校長先生は言わなくていいです。ここに黒と白の石を置きます。校長先生もし噂が本当だったら黙って黒石を握って下さい。オレはそう言ってつめよったんだ」
 「そしたら」
 「うん、それでどっちを取ったの」
 IQはみんなを見つめながら、そっと碁盤の上の石を指差した。
 黒石だった。

 「あの日から調度60年後よ」
 「いるんだ、この世界に」
 「じゃムサシ君も70才になっているの」
 「いや、ムサシ君は10才のままだと思う」
 「えーっだってあれから60年経ってんのよ」
 天然は理解できないといった風だった。
 「元々この世界で10才の少年なのよ、だから今も10才のままだと思うの」
 サッチャーが言った。
 「何だかややこしくてオレにはさっぱりだ」
 ガンタツが言った。
 「とにかく噂通りだとすれば、何才かは置いといて、この世界で、もしかして身近にいるかも知れないな」
 モアが出合いを期待するかの様に言った。

 「ねー一局打ちましょうよ。いい天気だし、外で打ちましょう。この碁盤借りて外へ出ましょうよ」
 サッチャーが言った。
 5人は碁盤と碁石をたずさえて校庭に出た。おだやかな日差しの中、早春のほんの少し冷たい風にゆれ、桜の花の蕾がピンク色になっていた。
 「ここで打とう。モア、久し振りにどうだ」
 ガンタツは人なつっこい顔でモアを見ながら笑っていた。
 「いやーガンちゃんにはずい分ひどい目にあったからなー」
 「何言ってんだ、お前のほうこそオレをひどい目にあわせたじゃないか」
 「アハハハー」

 花壇の縁に腰掛けながら二人の戦いは始まった。
 「ガンタツはたいしたもんだよな。あの悪ガキが福祉施設のオーナー経営者にまでなったんだから」
 モアが碁盤を見つめながら言った。
 「お前のほうこそ、あの優柔不断の愚図が精神科の院長先生様だもんな、患者は大丈夫か」
 「いやー大丈夫じゃないだろう」
 「アハハハーー」皆も大笑いしていた。
 「それにしてもこの千歳市は本当にいい所だ。サッチャーのおかげだ、長いこと市長と言う大変な仕事をやり抜いてくれたからな」
 ガンタツはしみじみと言った。
 「あら、そんなこと無いわ。私、IQと天然にどれだけ助けられたことか。IQが事務次官になってくれたから、中央との話がツーカーなのよ。それに天然がスタープレヤーになったおかげで、この市が日本中から注目されてね。引退の後も人寄せおばさんになってくれたおかげなのよ」
 「いやーサッチャーの指導力のおかげよ、昔からね」
 天然が言った。

 「オーイこっちこいよ、走れ!走れ!」
 校庭では数人の子供達が走り回っていた。
 やがて一人の少年が走ってきて碁盤を見て立ち止まった。
 「こんにちは、おじいちゃんとおばあちゃん達、碁を打ってるの」
 「こんにちは、ボクも碁を打つの?」
 「うん、少しね、お姉ちゃんは強いよ、僕、お姉ちゃんには全然勝てないよ」
 「そ・・・ボクは何年生?」
 「ボク、今度5年生になるよ」

 「オーイ早く来いよー」
 遠くから少年を呼ぶ声がした。
 「待ってくれ、今行くよ、じゃおじいちゃん、おばあちゃん、さようなら」
 「あーっボクは、」
 少年が走り去ろうとする時、「名前教えてー」サッチャーが言った。
 「僕、ヒサシ、久しいって字書いて、ヒサシって言うんだ」
 「じゃねー」
 少年は走り去って行った。

 「久君か」
 「あんな感じだったなあー」
 「うーん何か似ているみたい」
 「そうだなあーもう60年も前の記憶だからなあー」
 「おばさん達こんにちはー、待ってームサシちゃーん、まってー」
 女の子が5人のそばを走り去って行った。
 「えーっ」
 5人は顔を見合わせ、遠くに走り去って行った少年の姿を追っていた。

 「ムサーシ蹴っ飛ばせー」
 「ヨーシけんちゃん行くぞー」
 「ムサシちゃーん私にも回してー」
 遠くに子供達の元気な声が流れていた。
 5人の元に風が吹いてきた。
 日差しが雲にさえぎられて影がスッーと子供達の方へ走って行った。
 みんなは呆然として子供達の走る姿を眺めていた。
 とめどなく涙が流れていた。


                                完