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  未来少年ムサシA  囲碁サロン大会


 やがて二人は駅前の繁華街に出た。
 申し合わせたように父と子は辺りをキョロキョロ見回していた。
 「あーあった、父ちゃんあそこだ」
 少年は十数メートル先にある茶色っぽい小さなビルを指差した。
 そのビルの3階に『碁』と看板が出ていた。

 二人は階段を登って行った。  ムサシはドキドキしていた。透明のドアを押した。
 「今日は大会だよ。僕は出るのかな、それとも父ちゃんかな」
 サロンの受付で主人と思われる初老の男が二人を交互に見つめていた。
 「僕が出ます」
 「初めて見る顔だね。今日はどこから来たのかな?」
 「えーっ、あー」少年はあわてて、振り返って父の顔を見た。

 「・・・・・桜岡小学校です」
 「あー桜岡小か。あの千年桜のそばの学校だね」
 「はい」少年はほっとして辺りを見回した。

 「じゃ名前を書いて」
 主人から紙を手渡された。ムサシは手にとって父の顔をじっと見た。
 父は小さくうなずいた。
 「未来(みき)ムサシ」そう書いて主人に手渡した。

 「ミキムサシ、ほう変わった名前だね。棋力は? 試合はすべて互先だけど参考までに聞いておこう」
 「・・・・・四段くらい」
 ムサシは自信なさそうに小さな声で答えた。

 周りは大勢の大人たちが集まりだした。
 誰も自信たっぷりの表情で強そうに見える。
 小学生の出現に皆が好奇心をもってムサシを見ていた。

 「今日はオレは絶対優勝してやる。前回はあいつのひきょうな手でつい、カーッとなってしまったんだ。けど実力はオレの方が上なんだ」
 「健介、勝負は時の運だ。勝つことよりも、自分の碁を打つように心がけろ」
 「おやじ、オレがあんなズルな奴に負ける訳が無い。今日こそ俺の力を見せつけてやる」
 健介は囲碁サロンの入口の前で力んでいた。
 「健介・・・・」父親は少しもてあまし気味だった。
 戸羽健介は向こう気が強く、実力はあるがすぐカッーとなる中学1年生である。

 「こんにちは」
 「よう、けんすけ、今日は優勝か」サロンの受付で主人が声高に言った。
 当然そうなって欲しいといわんばかりの口調だった。
 「当然です。この前の様なヘマはやらないさ。重彦はまだですか」
 健介は闘志の持って行き場が無く、あちこちうろうろしながら言った。

 そう言っている所へ重彦が来た。
 前回、健介に決勝で当たって勝っている。
 非勢だった碁を終盤、勝負手を放ち、それに動揺した健介が自滅して逆転されてしまったのだ。
 繁彦は静かで闘志を表に出すようなことは無いが、健介と違って試合巧者で相手の心理を読むことにたけている。
 津留重彦中学1年生、健介は頭に来ると時々「ずる」と呼んでいた。

 ムサシは静かに皆の様子を見ていたが、やはり二人の中学生のことが気になっていた。
 「大人はもういい、二人の中学生はどんな碁を打つんだろうか。僕の思い違いじゃなければいいが」
 そう思いながら対戦表を見た。

 一回戦が戸羽と当っている。隣の枠に津留がいた。
 順当に行けば続けて二人の中学生と当たることになる。
 サロンの主人があえてそうしたのか、ムサシはラッキーと思った。
 トーナメント戦は組あわせ具合により当らない確立の方が高いのだ。

 「ヘエーニ回戦でおめえに当るのかよ。覚悟しときな、二度とオレには通じねえーよ」
 戸羽がにんまりと笑いながら、ムサシのことは全く問題にしていないかの様に津留を睨みつけていた。
 「・・・・自分がヘマやっただけじゃないか・・・人のセイにするなよ」
 津留はうつむきながら、独り言の様に言った。
 「なにー何か言ったか」戸羽が大きな声を出した。
 「オイオイ、もう始まったのか、決着は盤上でつけなさい」
 主人が笑いながら制した。

 「ホー左の山に少年達3人ですか。そしたら決勝はこの3人のうちの誰かが出てくるというわけですな」
 紳士然とした恰幅の良い50歳位の男が言った。
 その言葉を聞いて戸羽はニンマリとほくそえんだ。当然オレが出るに決まっていると言わんばかりの態度だった。


                                つづく