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  未来少年ムサシB  ムサシの活躍


 一回戦が始まった。
 白番が当ったムサシは白軍に弱い石を作らないように、形を整えながら打ち進めていった。
 黒は足早に先行しながらも自軍の薄みを放置したまま、白の石を圧迫してきた。
 まるで力でねじ伏せてやる、といわんばかりの打ち方だった。
 『やっぱり・・・激しいなあー。力任せだ。自分が強いと決まっているような打ち方だ』
 ムサシはそう思いながら、じっと見ている父の顔を見た。

 父はムサシの目を見ながらかすかにうなずいた。
 自分の碁を打てという合図だった。

 『何だ、こいつは小さいのにやけに落ち着いていやがる。そんなぬるい手でオレに勝てると思っているのか』
 じっと辛抱している白の石に戸羽は更にかさにかかった様な打ち方になってきた。

 『チャンス!』と思ったムサシは伸びきった黒の薄みをねらった一手を打った。
 「エーッ」今までじっと力を貯める打ち方に終止していた白が反撃をしてきたことに戸羽は意外な感じを受けた。
 そしてその手を見ていた顔がみるみる赤くなっていった。
 「まいったなー」かすかにため息を吐くように言った。

 ムサシは赤くなった相手の顔をじっと見据えていた。

 それ以後激しい応酬が続いた。
 しかし結果は明らかだった。

 戸羽はじっとうつむいたまま動かなくなった。
 ひざの上に置いた手がこきざみに振るえだした。
 しばらく沈黙が続いた。

 ムサシは父の顔を見た。父は大きくうなずいた。
 『よし』といっている様にムサシには思えた。

 戸羽は小さく頭を動かした。
 「投了だね」そばでじっと二人の碁を見守っていた主人が念を押すように言った。
 戸羽は黙って小さくうなずいた。

 「未来ムサシくんの勝ちです」
 「いやーしっかりした打ち方だ。ムサシ君はかなりの打ち手だよ。小さいのに子供の打ち方とは思えない。津留君、面白い勝負になりそうだな」
 店の主人が皆に聞こえるような声で言った。

 一回戦を早々に勝って二人の碁を見ていた津留は、驚いた様にじっとムサシを見つめている。
 その視線に気がついたムサシは津留を見てニッコリと笑った。
 津留は慌てた様に視線をはずし、手洗いの方へ歩いて行った。

 二回戦は中盤まで白熱していた。中盤過ぎしびれを切らした津留がムサシの模様に打ち込んでいった。
 そこから戦いが始まりガタガタと自滅するように津留の石がつぶれていった。

 三回戦から同じ様な感じでムサシは決勝まで進んだ。

 「ほー、ムサシ君と言うのかね。いやーしっかりしている。小さいのにどうしてあんなに安定感のある打ち方ができるんだ。すごい子が出てきたもんだ」
 先程試合の始まる前に対戦表を見ながら、左の山からは三人の子供のうち誰かが出てくると予測したその人だった。

 「長友さん、意外な組み合わせになりましたね」
 主人が目を丸くした様な顔をして話しながら近づいてきた。
 「いやー嬉しいですね、才能豊かな子供と打てることになって、どうなりますかねー」

 注目の決勝戦が始まった。
 黒番が当ったムサシは淡々と打ち進めていった。
 無理せず相手も充分納得のしている打ち方に見えた。
 中盤を過ぎ大ヨセに入った時、事件は起きた。

 白は黒地への侵略を見る一手を放った。
 ムサシはこの時と思った。
 打ちすぎだった白としては自軍の薄みを補う一手を打っていなければいけなかったのだ。
 すかさずムサシは白の薄みをつく急所に打った。
 一瞬「ウーッ」と長友は搾り出す様な声を発した。
 その一手を境に白は後退が始まった。

 ムサシの父はその場を離れた。
 窓の外をじっと見ながら、『やはり思ったとおりか』そう言って深いため息をついた。
 『容易じゃないぞ、どうすればいいんだ』小さくつぶやいた。

 「ムサシ君強いね。終盤まで形勢は悪くなかったと思ってたんだけど、この手が打ちすぎだったんだね。すかさず急所に打たれて後は打ってみたまでだ。それにしてもムサシ君はしっかりした碁を打つね。全然乱れないね」
 長友はムサシのことをもっと知りたいと思っている様だった。

 50人を越す大人達の中で最年小の少年が優勝したのだ。
 皆は意外な結果に驚きとニューヒーローの出現に感激した面持ちで盛んな拍手を送った。
 「ムサシ君おめでとう。お父さん、少しお話させて頂いてもいいでしょうか」
 二人が囲碁サロンを出た時、出口で待っていた長友に呼びかけられた。


                                つづく