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  未来少年ムサシC  ムサシの正体


 決勝戦の相手だ。
 「はい」そう言ってムサシの父は何でしょうかと言った顔で長友を見つめた。
 ムサシも好奇心に満ちた顔で見上げていた。
 「ご心配いりません。特別難しい話ではないんです。ムサシ君の碁に大変興味を持ったものですから、少しお聞きしたいことがありまして、ここでの立ち話も何ですから、あそこの喫茶店でもどうですか」
 そう言って指差した。
 10mほど歩いた所に喫茶『泉』と書いてある。

 「私は長友と言います。えーとお名前はまだお聞きしてなかったですね」
 「失礼しました。未来です。未来譲(じょう)と言います。むさしの父親です」
 「未来さん、ムサシ君は桜岡小学校では無いんですよね」
 「エーッ、どうして」父は少し慌てた。
 「いやいや、いいんですよ、そんなことは。私は桜岡小学校の校長をやっています。何かご事情がおありじゃないかと思って、その辺のところをお聞かせ願えればと思っているんですが」
 「はい、いい方にお会いできました。私達親子は少し事情があります。端的に言いますと碁を教えたいと思っているんです。特に中学生までの子供達にです」
 そう言ってムサシの父は長友の顔をじっと見た。

 長友はこれからこの人は何を言うのだろうかと、視線はムサシの父を見たままグイッと腰を動かし座りなおした。

 「ムサシは・・・・確かに桜岡小の生徒なんです。しかし」
 譲は少しためらいがちに目を伏せた。しかしきっぱりとした口調で言った。
 長友は何事かと、ムサシと譲を交互に見つめていた。

 「校長先生、こんにちは、あーっさっきのムサシ君」
 「もう一度、オレと打ってくれ、今度はオレが勝つ」
 「やあ、戸羽君、又背が伸びたな」
 「校長先生、ムサシ君は桜岡小ですか。一年前にはいなかったと思いましたが、転校してきたんですか」
 「うっ、うん」
 校長先生は返事につまった。
 「オレ、さっきの碁、自分で納得できません。もう一度ムサシ君と打ちたいと思っています」
 「僕はいつでも打ちます。津留君とも」
 「ムサシ君、君が中央ケイマに打った時、オレは・・・・」
 戸羽はムサシと1局目の碁について話し始めた。
 校長先生はムサシと戸羽のやりとりをじっと聞いていた。
 それを見て譲はメモ用紙に何やら書き始めた。
 やがて譲は書き終わると「校長先生、後で読んで下さい」
 立ち上がりながら手渡した。
 そして耳元で「必ず」と囁くように言った。

 「ムサシ、今日は帰ろう。戸羽君又後で会おう、楽しみにしているよ」

 「戸羽君、今日は君の負けだ。話を聞いても、ムサシ君はなかなかしっかりしている。とても小学生とは思えない。ライバルができて良かったじゃないか」
 「・・・・ハイ」戸羽は納得していない風だった。
 そのメモをくいいるかの様に見ていたかと思うと、瞑想するかの様にじっと目を閉じた。
 一人になった校長先生はメモを広げた。

 『9月12日午前10時ここでお会いしましょう』

 メモの最後に書かれた言葉を小さくつぶやいた。

 長友は「フーッ」と大きくため息をついて、そっとメモを閉じて胸のポケットの中にしまった。
 あたりを伺うように、左右を確認して静かに立ち上がった。
 スーツの襟を両手でギュッとひっぱり背中を丸めるようにして歩いて行った。

 「ムサシ、よくやった。3万円の賞金はこの際大助かりだ。父ちゃんが出れば勝つに決まっているけど、それじゃ意味がない。小学生が勝ったことがこれからの私達の使命に役に立つんだ」
 「うん、僕何が問題か分かったような気がする。父ちゃん、分かった?」
 「はっきりと分かった。やっぱり思っていた通りだ。大人はもう間に合わない、中学生以下の子供達に教えるんだ。その為にはどうしても今日の校長先生の協力が必要なんだ」
 「とにかくこの世界で生きてゆく為には、まず寝る所と食べることだ。明日から父ちゃんは仕事をするぞ」

 千年桜のある公園の一番奥まった所に古ぼけた小さな稲荷神社がある。
 その裏側は山裾が急勾配に迫ってきている。
 辺り一面落ち葉が積もり放題になっていて、賽銭箱は埃にまみれていた。
 誰も参拝に来る人がいないことはすぐに分かった。
 「これでも、ニ、三日なら雨、露がしのげるだろう。仕事が見つかるまではここで我慢しよう。勝手に上がっても神様も許してくれるだろう」
 二人は薄暗くなった神社の扉の前で、おにぎりをほうばりながら話していた。


                                つづく