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  未来少年ムサシD  未来の世界


 「未来さん、信じます。とにかく話を聞かせて下さい」
 長友は少し青ざめた顔で辺りの様子を伺うようなそぶりをしながら小さな声で言った。

 「信じていただけますか。これから大変な時代になってゆきます。少しずつ、しかし止まらないんです」
 「人に聞かれるといけない。ここじゃ落ち着いて話しずらいので私の家に行きましょう」

 「えーっ未来さんの家?」譲の言葉に長友は意外といった顔をした。

 「はい、きて頂ければ分かりますよ」
 「私の住んでる世界はもう戦争は無くなったんです。いや無くなったというより出来なくなったんです」
 譲は歩きながら小さな声で話し始めた。
 「科学が進みすぎて、戦争になれば、人類が確実に破滅するということがやっと皆が分かったんです。だから私達の世界は本当に平和になったんです。それはいいんですが、それまでは大変でした」
 そう言うと譲は深いため息をして長友を見つめた。
 長友は次の言葉を待った。
 「これから30年後、昨日の事が原因で第三次世界大戦が起こります。世界が三つの陣営に分かれて複雑に絡み合って三つ巴の核戦争になり、人類の三分の一が死んでしまいます。20億人です。それから更に30年経った世界が私の住んでいる世界ですが、犠牲が大きすぎてまだ回復できていないんです。だから何としても30年後の戦争をくい止めなければいけません」

 「校長先生、こんにちは。昨日の飛行機のテロはびっくりしました。もし日本でもあんなことが起きたら恐いですね」
 「やあ、リナちゃん、中学生になってずい分大人っぽくなったねー」
 「そうですか。あらっ、新しい顔ね。転校生?」
 リナはムサシを見てニッコリと笑って去っていった。

 「速水リナっていう子です。2年前に私の学校に転校してきたんですよ。それ以来抜群の成績で、中学でも常にトップの成績です。そうだ、碁も強いですよ。この前は出ていなかったけど、ムサシ君といい勝負かも知れない」
 譲とムサシはじっとリナの後姿を見ていた。
 そして何か言いたそうに二人見つめ合った。
 しばらく歩いて行った。

 「校長先生、僕んちだよ、ハハハー」
 そう言ってムサシは笑った。
 「稲荷神社、ここが住み家ですか。ここじゃ何かと不自由ですね。早く何とかしなければいけませんね」
 校長先生も笑いながら、辺りの様子を伺うようにあちこち見回していた。

 「60年後の世界の人達は考えたんです。何故第三次大戦が起きたのか。政治家だけじゃなく、科学者、教育者、実業家、宗教家、他にも色々な分野の人達が考えた結論は、これまでの人々は自己主張が強すぎたということでした。すべての国、民族が決して譲ることをしなかったのです。主張し続けて勝つことだけが立派なことだと思いすぎたんです。その結果、破滅への道を止める事ができませんでした」
 校長先生は凍りついたような表情でじっと話を聞いていた。
 「IQという言葉は勿論誰でも知っていますね。頭脳の優秀さを表わすものですが、IQが高ければ本当に頭が良いと言えるのでしょうか。今の時代まで、更にこれから30年先まで、このIQばかりが重要視されすぎたんですよ。1990年のなかばから言われていることですが、意外と知られていません、アメリカのハーバード大学の先生によって提唱されたんでが、IQよりもっと大事なものが・・・・」

 「アーッおまわりさん」
 ムサシが驚いたような大きな声を出した。
 「あっ校長先生」二人の巡査は敬礼をしながら言った。
 「ここの稲荷神社に不審な親子がいるという情報が入りまして調査に来たんですが、こちらの二人ですか?」
 「えーっ、あっ、まあそうですけど、決して不審者じゃ無いですよ」
 校長先生は二人をかばった。
 「校長先生は二人と何か関係がおありですか」
 「いや、関係というか、先日、駅前の囲碁サロンの大会で知り合ったんですよ」
 「そうですか、とにかく署まで来ていただけますか」
 巡査の言葉に校長先生はじっと譲を見た。
 「未来さん、まあ、とにかく行った方がいいでしょう、大丈夫ですよ」

 「わーすごい、すごい、僕一度でいいから本物のパトカーに乗ってみたかったんだ。ねえおまわりさん、サイレン鳴らして」
 窓から外を見ながらムサシは大喜びしていた。
 夕闇迫った警察署にはまだ沢山の警察官が出入りしていた。
 「わーパトカーがいっぱいだ。白バイも沢山ある。いいなあー」
 「ムサシ少しおとなしくしなさい。父ちゃんは取調べを受けるんだよ」
 「僕たち何も悪い事してないよ。どうして取り調べられるの」
 「住所がハッキリしていない者が勝手に稲荷神社を使っているからだよ」
 「ふーん、でも僕達が使ったから埃だらけだった神社がきれいになったんだよ。掃除をいっぱいしたんだから」
 ムサシは納得できないといった風に辺りをキョロキョロ見回していた。

 「やー、校長先生もご一緒だったんですか。ご足労頂いてすみません。まあどうぞ、こちらの方へ」
 そう言って立派な身なりの男は部屋に案内していった。
 広くて大きな机に頭まですっぽりと隠れるほどのレーザー張の背もたれのイスがあった。
 部屋の中央には7〜8人は座れるかと思われるほどのこい茶色の応接セットが訪問客を圧倒するかのように置いてあった。
 案内した男がこの警察で一番偉い人であることは、ムサシにも分かった。


                                つづく