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  未来少年ムサシF  今からやるべきことは


 「ハイ、それは第三次世界大戦が起こらないようにする為です」
 「第三次大戦?」
 市長は確認するかのように小声で言った。
 「ハイ30年後、第三次世界大戦が起こります。人類は破滅の危機を迎えます。人類の3分の1が死んでしまいます。それから30年後、私達が住んでいる世界もまだ、その時の惨事から回復できていません。私達はそれ程の悲劇を経験してやっと分かったんです」
 「何が分かったんですか?」
 市長と署長が声を合わせるように同時に言った。
 「自己主張しすぎたんです。一人一人が、又国が、又民族が、それぞれがどこまでも主張しすぎて協調することを忘れてしまったんです。主張する事がとても正義であるかの様な、又勇気があることの様な、又偉大である事の様な気持ちにとらわれすぎていたことに、やっと気がついたんです。どこかで、その様な精神の持ち様の流れを、食い止めなければいけないということが分かったんです。その最後の分岐点が今なんです」

 市長も署長も校長先生も凍りついたように譲の話に聞き入っていた。
 お互いの心臓の鼓動が聞こえるかと思われるほどの長い沈黙が続いた。
 「それじゃ、どうやって、どんなことが・・・」
 絶望したかのような、重々しい市長の声だった。
 「今から子供達に教えましょう。碁を教えるんです。碁の技術以前に、相手との調和を図らなければいけないことを徹底的に教えるんです。モデルケースを作りましょう。思考力をつける、集中力をつける、相手の考え方を受け入れる、そして調和を図る習慣を、小さい時から子供達に解かり易く教えるんです」
 譲はたたみかける様に一気に話した。
 「しかし、それで成果は期待できるでしょうか」
 校長はいかにも大変な仕事だと言わんばかりに落胆した様に言った。
 「碁に理解のある親は少ないからね」
 署長は譲を見ながら言った。
 「僕たちの世界では幼稚園からやっているよ」
 ムサシは父親の同意を得るかの様に父を見ていた。
 父は黙ってうなずいた。

 「碁は強くならなくったっていいんだよ。失敗したら、どうして失敗したかを教わるんだよ。そしてどうすれば良かったかも教わるんだ。友達とケンカした時も、同じ様な気持ちを持たなきゃいけないってことを教わるんだ」
 市長も校長先生も署長も、ムサシ君の言うとおりだと言いたげな顔で深くうなずいていた。
 「しかし、現実的には・・・どうすればいいんだ」
 当然自分が中心になることを予期している校長先生は複雑な表情を見せた。
 「・・・・・・教育長には・・・私から話をしておきましょう」
 そう言って市長は決断をうながすようにじっと校長先生を見つめていた。


 「パス・・・走れ、回れ、そこだパスしろ・・・・だめだ、もっとパスしなきゃ」
 男の大きな声に5〜6人の女の子がバスケットの練習をくり返しくり返し行なっていた。
 「ヨーシやめーー」
 「・・・・・・決まった、・・・コーチ、今日はよく・・・ショートが」
 息をきらせながら一人の女の子がコーチに向かって言っていた。
 「ショートはよくできた。でももっと早くパスしなきゃダメだ。特に試合の時はな」
 「三原、この後、生活室へ行きなさい」
 「エーッ何ですか、私宿題がたまっているんです。宿題よりも大事な事ですか」
 「しょうがねなー、お前はいつも溜めてばかりで。長い目で見れば宿題より大事な事だ」
 「ヘーッー、でも何だか面白そうー」
 三原ゆか、6年生、勉強はからっきしダメだがスポーツ万能の超ねあかな性格で、友達からは“天然”のあだ名で呼ばれている。

 「吉川君は志望校はまだ提出していなかったね。前は私立の青雲を目指したい様なことを言っていたと思ったけど、もうそろそろ決めといた方がいいよ」
 「・・・はい、でも片山君が、青雲は無理みたいといっていたんで・・・」
 「片山君の言うことより君自身がどう思うかが問題だよ。人の意見に左右されたらいけないよ」
 吉川茂明(よしかわしげあき)は成績は悪くないが自分ではいつもはっきり決められない優柔不断なところがある。「もっとハッキリしろ」と言われていて、“モア”と呼ばれている。
 「吉川君、放課後生活室へ行きなさい」
 「エーッ・・・ハイ、何ですか」
 「まあ、行ってみればわかるよ」
 担任の先生にうながされた。

 「何だおめえも来てんのか」
 「オレだって来たくなかったよ。勉強の時間が無くなってしまう」
 「モア、お前どうする気だ。お前なんか来たってどうしようもねえだろう」
 乱暴もののガンタツが吉川をつかまえてしゃべっていた。
 「・・・自分だって何しに来たんだよ」
 「何い、オレは父ちゃんが行けって言ったから来たんじゃねえかよ」

 放課後、生徒会の会議室に30人ほどの子供達が集まり騒がしくじゃべっていた。
 そこへ校長先生がムサシを連れて入って来た。


                                つづく