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  未来少年ムサシG  何の為に碁を覚えるのか


 皆一瞬、ムサシを見て静かになったが、又前にもましてうるさくしゃべりだした。
 「皆、注目!」
 校長先生は大声を出した。
 さすがに静かになったが、まだちらほらとひそひそ話が続いていた。
 「皆静かに! 皆に紹介しよう、未来ムサシ君だ。今日からこの学校の4年生になる。みんな仲良くして下さい」
 「先生、これから私達、何をするんですか? このプリントを両親に見せたら、行きなさいと言われました。今日私は塾があります。塾へ行くより大事な事でしょうか」
 いつも良く自分の意見を言う湯川八重子が言った。
 「みんな、これから囲碁を勉強してもらう。囲碁の先生は、ここにいる未来ムサシ君だ」
 「エーッなんだー囲碁ですか。私そんな時間ありません。部活で忙しいんです」
 スポーツ万能で特にバスケットでリーダ格として活躍している三原が言った。
 「先生、囲碁やって何になるんですか。試験の点数があがるんですか」
 真面目だけどいつも点数ばっかり気にしている片山は、こんなことで集めたのかと言わんばかりの口調だった。

 「よーし、みんな良く聞いてくれ」
 それまで黙って聞いていた校長先生は声を一段と大きくして言った。
 「みんなの疑問は良く分かった。無理も無い。何の為に先生は皆に囲碁を奨めるかということは、皆のお父さん、お母さんに見てもらったプリントに書いてある通りの効果があります」
 「エーッ、そんな効果があるのかなー」
 「信じられない。時間の無駄じゃないのかなー」
 「でも、もしかしたら意外なことがおこったりして」
 めいめいが勝手なことを言って騒がしくなってきた。

 その様子を見て校長先生はため息をついた。
 『どうやって子供達に伝えたらいいんだろう』
 校長先生の困った顔をじっと見ていたムサシは、トコトコ歩いてきて教壇の上に立った。
 皆は驚いたようにムサシに注目した。
 室内は静かになった。
 「僕が皆に碁を教えるのは、碁が強くなるためじゃないよ」
 「エーッ」「エーッ」「何言っているんだ」
 皆の驚いた反応で又騒がしくなった。
 校長先生はそうだと言わんばかりにじっとムサシを見ていた。
 ムサシと視線が合った。
 校長先生はうなずいた。
 『その通りだ、続けなさい』ムサシにはそういわれた様に感じた。

 「碁は相手との戦いじゃないよ」
 「エーッ」
 一段と驚きの反応が返ってきた。
 「碁は自分との戦いなんだ」
 「自分との戦いって何だ。そんなことがあるか。戦いは相手とやるもんだ」
 乱暴もので通っている6年の岩田達男は大声で言った。
 皆はガンタツと呼んで恐がっていた。
 「碁は自分との戦いなんだよ」ムサシは続けた。
 室内はざわついていた。

 「自分の欲張りな気持ちと戦うんだよ」
 「自分の弱い気持ちと戦うんだよ」
 「自分の狭い気持ちと戦うんだよ」
 室内はシーンとした。
 「碁をやるとね・・・」
 ムサシがそう言うと、皆はムサシの次の言葉を待つように一段とムサシを注目した。
 「碁をやるとね、自分の得意なものがもっと得意になるんだ。そして苦手なものでも苦手じゃなくなるんだよ。スポーツでも勉強でも、又友達も増えるよ」
 皆は凍りついたようにじっとしていた。

 その時、「パチパチパチ」一人拍手を送る少女がいた。
 いつもはひっそりとして大人しいが、人に優しいリーダ的存在の若宮幸子6年生だった。
 みんなから“サッチャー”と呼ばれていた。
 その拍手につられるように多くの拍手が起こった。
 その拍手の中で一人ぽつんと離れて窓の外ばかり見ている少年がいた。
 愛原救(あいはらたすく)学力抜群の、校内テストでは常にトップを保っているが、友達がいなくていつも一人ぼっちだ。
 そんな彼を皆は畏敬と侮蔑の入り混じった気持ちで“IQ”と呼んでいた。

 「ムサシ君、良く言った。立派だったぞ」
 皆が帰った後、校長先生はムサシの肩をしっかりと握って言った。
 明日から囲碁の時間を週三回月、水、金と開くことを決めた。
 「何人集まるだろうか」
 「しかし、やるしかないな」
 薄暗くなった校門を出てゆく子供達の後姿を見ながら、校長先生は不安を隠しきれなかった。


                                つづく