翔べ宙太(みちた)!11  神様の猶予


 しばらくすると、声が聞こえた。
 「宙太、時間をもらってどうする気だ。おまえの父は疲れ果てて、もうこれ以上 、網を引くことはできないんだぞ」
 「神様、お願いです。俺に少しの時間を下さい。そして父ちゃんの時間を止めて下さい」
 「宙太、お前に時間を上げるのは良い。しかしお前の父の時間を止めることはできない」
 「えー、そんな、あなたは神様でしょ、神様なら少しばかりのお慈悲をください。お願いします」
 「宙太、私に慈悲を求めるのなら、お前に決死の覚悟はあるのか」
 「はい」
 「その覚悟とはなんだ」
 「はい、もし3回目をできなかったら、俺が父ちゃんの代わりに、死ぬまで網を引きます。だから父ちゃんを助けて下さい。お願いします」
 「お前が死ぬまで、網を引くのか」
 「はい」
 「どうして、そこまでお前はするのか」
 「俺はとうちゃんが好きだから、父ちゃんが大好きだから、父ちゃんが死んでしまえば、母ちゃんが悲しむから」
 「それだけか」
 「はい」
 「そうか、それだけか」神様は言った。

 やがて父親の時間が止まった。
 父親が動かなくなった。
 宙太は少しホッとした。これで父ちゃんはこれ以上疲れなくても済む、そう思った。

 「お前に3日間の時間をやろう! 地球へ戻るがいい」神様の声が聞こえた。
 次の瞬間、宙太とジュピターは、ものすごい勢いで地球へ落ちていった。
 ジュピターが恐怖にふるえて、キャンキャンと鳴き続けた。
 宙太は思わず、「ワー」と大声を出した。


 大声とともに、宙太はハネ起きた。
 宙太はフーと深いため息をついた。
 全身汗びっしょりだった。
 「何だ夢か」宙太はつぶやいた。
 宙太は我にかえった。
 外ではジュピターのキャンキャン鳴くけたたましい声がしている。
 宙太はびっしょりの汗を拭くのも忘れ、すぐに外にとびだして、ジュピターのそばに行った。

 「どうしたジュピター」ジュピターは宙太がそばに来ても、鳴きやまなかった。
 満月の出ている空に向かって、ジュピターは必死になって吼えている。
 「ジュピター、大丈夫だ、大丈夫だ」そう言って、頭をなでてやった。

 やっと、ジュピターはキューキューと、宙太に甘えるような声になって、静かになった。
 そして、しきりに宙太の顔をなめた。
 夜明けまでには、まだ時間があった。
 宙太は布団に入った。

 「今日から和尚さんの所へ行こう。時間がない! 急がなきゃ!」


 学校の授業が終ると、いつものように宙太はジュピターをつれて、天道寺へ行った。

 「和尚さん」呼んでも返事がない。
 中へ入ってゆくと、草心はお堂の中でお経を唱えていた。
 宙太はそっと上がり、草心のそばにちょこんと座って、仏様をじっと見ていた。
 恐そうな顔をして、炎を背中にかかえて剣を持っている像が、薄暗い中に立っている。
 あの像は神様だろうか、それとも悪魔だろうか、宙太はその顔を真似した。
 せいいっぱいの表情でその恐い顔を創って、その像とにらみ合いしていた。

 やがて、お経が終わり、草心はふと左を見た。
 「わーっ」と言って、草心は30センチほど飛び上がって、驚いた。
 草心が驚いたのを見て、宙太も驚いて反対方向に飛び上がった。
 「ああービックリした、どうした宙太か」
 「和尚さん、ビックリさせないでよ」
 「何言ってんだ、宙太がいつのまにか、そばで恐い顔をしているから、ビックリしたんだよ」
 「宙太、来ていたのか」
 「うん」
 「和尚さん、あの像が神様?」
 「うん、神様だけど、仏教では仏様というんだ」
 「どうちがうの」
 「神社って知ってるだろ、お正月に初詣に行くところ。そこには、神様がいるんだ。神道って言うんだよ」

 宙太はゆうべの夢の中の神様のことを思い浮かべていた。
 どんな顔をしているのだろうかと、宙太は目の前にいる仏様を見た。
 仏様は恐そうな気もするが、とっても優しそうな感じがして、じっとふし目がちに無表情で静かに座っている。
 
 「神様って恐いの」宙太は恐る恐る聞いた。
 「うーん、それは一言では言えないんだよ。でも宙太はまだ子供だから、子供には優しいよ」
 「へー、じゃ大人には優しくないの?」
 「いい人には優しいよ、でも悪い人には恐いよ。それはその人の日頃の行いによるんだよ」
 「父ちゃんはいい人だよ、どうして、父ちゃんには厳しいの」

 突然、父ちゃんの話になり、草心は何の事だか分らなかった。

 宙太はゆうべの夢の中で父ちゃんが苦しんでいるのを、思い出していた。

 「ああ、宙太の父ちゃんはとってもいい人だ。何か父ちゃんが苦しんでいるのか?」
 「うん、魚が取れなくて苦しんでいるんだ。神様がそうしているの」
 「いや、いや、そんなことはないよ。大人の世界はいろいろと複雑なんだ。きっと良くなるよ、宙太の父ちゃんはいい人だから、最後はきっと良くなるよ」
 「えっーほんと?」
 「うん、大丈夫だよ」
 「うん」宙太はやっと笑顔になった。

 「和尚さん、俺ブラックホールの勉強をもっとやりたい。そして神様の問題も解けるようになりたい」

 「神様の問題?」草心は宙太がどんな難しい問題も解けるように上達したいと思っているのかと思った。