翔べ宙太(みちた)!A 弱虫 宙太


 宙太は学校では目立たない普通の子供だった。
 特に勉強の発表の時は胸がドキドキして、上手に言葉に出せない事が多かった。ちゃんと理解していることでも、上手に言えなくて、先生には分ってないと思われることが多かった。
 クラスの子からもそんな所が、よくからかわれる対象となっていた。
 宙太は、うるさいなあと思いながらも、反発する事が出来ない、そんな子供だった。

 5時間目の授業が終わり、その日宙太は掃除当番だった。
 運の悪い事に、学年一の悪ガキ、薮田権(けん)とその子分2人の4人でやることになっていた。
 宙太は教室の掃き掃除を始めた。
 悪ガキ3人は、そんな宙太を見ながら、へらへら笑っているだけで、自分達はやろうとしなかった。どうせ宙太は何にも言えないということが3人には分っているので、宙太をバカにしていた。
 宙太は悔しいと思いながらも、もし反発して何か言おうものなら、3人にひどい目に合うことは分っていた。
 反発できない自分が情けないと思いながらも、少し我慢すれば済む事だからと、黙って掃き掃除をしていた。

 宙太は、一人で教室の掃除を済ませ、帰り支度を始めた。
 権が言った「よう、宙太。黙って帰るのかよ」
 「掃除が終りました。先に帰らせていただきます、と言えよ」
 「君に言う必要は無いと思う」宙太は小さな声で弱々しく言った。
 「何? もう一度いってみろよ」権が言った。
 と同時に宙太の肩を右手で軽く押した。
 「何でもないよ」宙太は帽子をかぶりながら、ランドセルをいち早く右肩に半分掛けたまま、逃げるようにその場を立ち去った。

 いつものことだ、相手にしないほうがいいと自分に言い聞かせながら、校門を出た。
 そのとたんに初恵ちゃんに会った。
 「初恵ちゃん、どうしたの? 遅いね」宙太が言った。
 宙太の家の二軒先の3年生、立花初恵。運動が苦手で、何をやるにしても怖がってばかりいるような女の子だった。
 「算数の問題が100点取れるまで帰れなかったの」初恵が言った。
 「そうか、今度、僕と一緒にやろうね」
 宙太は初恵ちゃんにはとても優しかった。
 小さい頃からけんか一つせず、いつも遊んでいた。内気な子供同士よく気が合ったのだ。

 そこへ権と2人の子分が、また現れた。
 「よう、宙太」「女の子としか遊べない宙ちゃん、かわいいね」
 強く反発しない宙太は、からかいの格好のえじきになっていた。
 「私も宙ちゃんとままごとしたいな」権の子分の平吉が言った。
 「初ちゃん、早く帰ろう」宙太は3人にからまれながらも、これ以上相手を刺激しないように、できるだけその場を逃げるように行こうとした。

 「まて、宙太」権は宙太の右腕を捕まえようとした。
 その手が宙太のすばやい動きにはずされて、はずみで初恵のカバンを捕まえてしまった。
 宙太と一緒に行こうとした初恵は、思わずその場にしりもちをついてしまった。
 「あッ、初ちゃん」見ると、初恵はもうほとんど泣き出しそうな顔で、唇をふるわせながら宙太を見つめた。
 「初ちゃん、だいじょうぶ?」宙太は初恵を抱き起こしながら、権に言い返すこともできず、うつむきながら歩き出した。

 宙太は屈辱を感じていた。そして、とても恥しかった。
 幼なじみの初恵の前で侮辱されても、何も出来ない自分の弱々しさが、宙太には悔しかった。
 自分自身がとても情けなかった。
 初恵はしくしく泣いていた。
 「泣くな、初ちゃん」
 「うん」「ミッちゃん、だいじょうぶ?」
 「何でもないよ、平気さ」