翔べ宙太(みちた)!21  おのれが心の内面、この世界にむかって微笑みかける


 今日は屋外活動の日だ。学校から歩いて40分くらいの所にある蓮池公園で、好きなことをやっていいことになっている。
 虫取りでも、植物の観察でも、写生でも、運動の好きな子はドッチボールでも良かった。
 宙太は絵が好きだった。
 特別に秀でて上手と言うほどでもなかったが、風景画が好きだった。
 遠くから眺めた家や林や田んぼの風景を描くことが好きだった。
 その日は絵の道具をもって、公園の小高い丘に登った。
 遠くに和尚さんのいるお寺が見える。その近くに宙太の家もあるはずだが林に囲まれて見えなかった。
 竹次じいちゃんがフナ取りのしかけを教えてくれた小川が光って見えた。

 二宮先生の声が聞こえた。お弁当の時間になったのだ。
 宙太は丘を下りて行った。
 公園の中央に大きな木がこんもりと茂った所がある。皆一緒にそこでお弁当を食べることになっていた。
 「さあ、これからみんなでお弁当を食べよう」二宮先生の声とともに、皆それぞれ、好きな仲間同士が集まり始めた。
 「宙太君、一緒に食べよう」学級委員長をやっている柴田とその仲良し3人の女の子に、宙太はたちまち囲まれてしまった。
 宙太はちょっとたじろいだ。逃げ出したい気持ちだったが、それも出来なかった。

 ふと見ると少し先のほうにゴンが一人で背を向けたまま座っている。
 人一倍体の大きいゴンは後ろ姿でも良くわかった。
 一人で背中を丸めて、そばの草をむしっては投げるしぐさをしていた。
 宙太は気になった。
 あの日の事件以来、ゴンの威光はすっかり地に落ちて、いつも一人ぼっちだった。
 二人の子分も一人は転校し、もう一人は離れてしまっていた。

 「柴田さん、ごめん、俺ちょっとゴンの所へ行くよ」
 「止めときなさいよ」柴田が言った。
 それにつられるように他の3人が、「そうよ、ゴンのことなんかほっときなさいよ」
 「一人ぼっちじゃ可哀そうだよ」宙太は言った。
 「自分が悪いんでしょ」柴田が言った。
 「そうよ、自分のせいなんだから、一人ぼっちになってもしょうがないでしょ」
 またつられるように他の3人が言った。
 「一人じゃ可哀そうだよ、ごめんねみんな」そう言って、宙太はお弁当を持ってゴンの所へ行った。

 「ゴンちゃん、一緒に食べよう」
 宙太がそう言うと、ゴンは振り向いた。
 「な、なんだ宙太、どうして俺の所へ来るんだ」ゴンはびっくりしていた。
 宙太はゴンの座っている周りに何もないことに気がついた。
 そうか、ゴンちゃんはお弁当持ってこなかったんだ、宙太はそう思った。
 「ゴンちゃん、この間はごめんね、俺やりすぎたと思っている」
 その言葉はゴンには意外だった。
 そして慌てたように「い、いや、いや、悪いのは俺だ、宙太は悪くないんだ」
 ゴンの言葉に宙太も少し驚いた。

 そしてゴンのそばに座ってリュックサックから新聞紙に包まれた包みを出した。
 開けてみると大きな海苔の巻いてあるおにぎりが2個とソーセージが2個とたくあん2個がはいっていた。
 「ゴンちゃん一緒に食べよう」そう言って、その包みをゴンの前へ差し出した。
 「いい、いらないよ」ゴンはあせった。
 「いいよ、どうせ俺一人じゃ食べきれないし、一緒に食べたら一人で食べるより美味しいよ」そう言って、宙太はおにぎりの1つを取ってゴンの前へぐいっと差し出した。
 ゴンは小さな声で「うん」と言って、手の取るといきなりガブッとかぶりついた。
 それを見て、宙太は安心したように、にっこり笑って自分もガブッとかぶりついた。
 「ソーセージも食べて、たくあんもあるよ」宙太がそう言うと「うん」とゴンは小さくうなずいた。

 「ゴンちゃん、今日給食ないって言わなかったの」宙太はゴンに尋ねた。
 「今日は千秋の遠足なんだ」千秋とはゴンの3つ下の妹だ。
 「ばあちゃんが千秋の弁当を作っていたんだ。卵焼と鳥のから揚げが入っていた。千秋は大喜びしていた。でももし俺のもって言ったら、千秋の分が無くなるから、黙っていたんだ。俺、おおぐらいだから」
 ゴンの家は母親が隣の県で旅館に住み込みで働いていた。
 いつもは、死んだ父方のばあちゃんと妹と3人で暮らしていた。
 母親は月に1〜2回位しか帰ってこなかった。
 宙太はいけない事を聞いてしまったような気がした。

 「ゴンちゃんは本当は優しいんだね」宙太は言った。
 「そんなんじゃないよ」ゴンは言った。
 ゴンの目が少しうるんでいた。
 「俺、こんなに優しくされたことなかった」ゴンが小さな声で言った。
 黙って二人でおにぎりを食べた。
 二人の間に気持ちが通じ合った空気が流れた。

 ゴンはおにぎりを食べ終わると「ああ、うまかった。宙太、俺こんなうまいおにぎり初めて食った」と言った。
 宙太は黙ってにっこり笑ってうなずいた。
 そしてゴンは続けた。「宙太、俺が死んでも俺の事忘れないでくれよ」
 突然の言葉に、宙太は「死ぬってゴンちゃん何だよ、病気なのか?」
 怪訝(けげん)な顔で尋ねた。
 「違うよ、そうじゃないよ。山領のやつと決闘するんだ」
 「決闘だって、どういうこと?」

 つづく