翔べ宙太(みちた)!22  あたえられたるこの局面


 ゴンは決闘にいたった話を始めた。
 「俺の子分だった平吉が、この前、山領小へ転校したんだ」
 そのことは宙太も知っていた。
 「そいつが手引きしているみたいだ。山領小のワル、村茂の子分たち5人がかりで、うちの学校の弱いやつを待ち伏せして、いたぶっているんだ。金を巻き上げられたやつもいる。この前、千秋もやられて泣いて帰って来た」
 「平吉を呼び出して、やめろと言ったら、『俺と決闘して勝ったら、やめてやる』と村茂が言っていると言うんだ。それで、俺はやることにしたんだ」
 「相手は何人?」と宙太が聞いた。
 「多分5人だろう」
 「ゴンちゃん一人で?」
 「うん」
 「いつ?」
 「あさっての夕方、一本松公園でやる」
 宙太には決闘なんて考えられなかった。
 しかも、一人で5人を相手にやるなんて、ゴンはただのワルだけの男ではないと、宙太は思った。

 ゴンは言った「俺、この前、宙太にやられて思ったんだ。俺は本当は弱虫だって」
 「ばあちゃんにも、ひっぱたかれた。ゴンをそんな弱虫に育てた覚えはないって。お前は図体がでかいから、威張っているけど、心は弱虫だって」
 「えー、そんなこと無いよ」宙太は言った。
 「いや、そうなんだ。自分より弱いやつばかりに悪さをする。そんなやつは弱虫なんだ。俺はこのまま弱虫でいたくない。だから、山領一のワルをやっつけるんだ。これは俺の問題だ。それでうちの学校のやつも助かるんだ」
 ゴンの言葉に宙太は圧倒された。
 ゴンちゃんは本当はいい人なんだと宙太は思った。


 家に帰った宙太は夕食の時、父に尋ねた。
 「父ちゃん、決闘ってどうすれば、勝てるの?」
 やぶから棒に言った宙太の言葉に父親はびっくりした。
 「決闘? 宙太は決闘するのか?」
 「いや、違うよ、ゴンちゃんだよ」
 そう言って宙太は昼間のゴンの話をした。

 「そうか、ゴンがそう言ったのか。ゴンは見所のあるやつだな」
 「それで宙太はどうするんだ」
 「俺、ゴンちゃんを助ける」
 「宙太はケンカが強いのか?」
 「俺がケンカしたのは、この前のゴンちゃんと一回だけだよ。でもその時は夢中であんまり良く覚えていないんだ。どうやったら勝てるのかわからないよ」
 父はしばらく、じっと考えていた。

 そして静かに言った。
 「宙太、宮本武蔵って知ってるか?」
 「うん、知ってるよ。剣の強い侍だよね」
 「その宮本武蔵は、生涯に60回の真剣勝負をやったが、一度も負けたことが無いんだ」
 父は続けた。
 「武蔵のすごいところは、剣の強さだけじゃないんだ。戦う前には相手の強い所、弱い所を良く調べたんだ。それだけではないぞ、戦いの場所も、その前に良く調べて、どこで、どのように動けば、有利になるか、よく思い描いたんだよ。今で言うならイメージトレーニングってやつかな」
 宙太は父の顔をじーと見ていた。

 父は更に続けた。
 「宙太、男のケンカはな、ここでやるんじゃないぞ」
 そう言って、父は自分の右腕を肩まで上げて、力コブを出すような格好をした。
 「男のケンカはな、ここと、ここでやるもんだ」
 そう言うと、宙太の頭と心臓を人差し指で押した。
 「良く考えろ! 男のケンカはな、知恵のあるやつが勝つんだ。腕っぷしの強さじゃないぞ。そして、最後は度胸だ」
 そう言って、父は宙太の目をじっと見た。

 「度胸って何?」
 宙太は尋ねた。
 「度胸ってのはな、一瞬だ、一瞬の気合だ。相手に一瞬でいいから、恐いと思わせる、一瞬の気合だ」
 「宙太がゴンをやっつけた時は、ゴンが宙太の事を一瞬、恐いと思ったんだ」
 「でも、俺はそんな気持ちはぜんぜん無かったよ。ジュピターを助けるために夢中だったんだ」
 「それが、一番強いんだ。ケンカは誰でも恐い、でも、自分でも恐さを感じないまま、突っ込んで行く、その気合が相手には一番こわいんだ」
 「宙太、けんかはしない方が一番いい。でもどうしても避けられない時は、勇気を出して戦え。決して逃げるな、逃げるやつは一番弱くて卑怯(ひきょう)だ」
 最後の方は強い口調になっていた。

 そして父は最後に、宙太に諭すようにゆっくりと静かに言った。
 「ケンカをする時は、しっかりと勝つ方法を考えろ。頭を使え、そして二つの事を必ず守れ」
 「1つは相手に怪我をさせないこと、1つは自分が怪我をしないこと、この二つはしっかりと守れ!」
 「わかった」  宙太は言った。そして父親がまた一段と大きく感じられた。


 布団の中で、宙太はじっと考えた。自分も、相手も怪我をしないようにして、そして勝つ、そんなことが出来るのだろうか。
 なかなか寝付かれなかった。
 「父ちゃんも、良く考えろと言った。この前、神様も良く考えろと言った」
 宙太は布団の中で小さくつぶやいた。
 やっと、うとうとした頃は東の空が白くなっていた。

 つづく