翔べ宙太(みちた)!23  どういう経過をたどるとしても、悔いなく・・・そう思ったとき、そこにかえって感謝と希望が生まれてきたのである


 翌朝、学校に行った。教室に入ると、ゴンが窓の外を見ながら立っていた。
 「おはよう、ゴンちゃん」
 「やあ、宙太」
 そう言ってゴンのそばに近づくと、皆に気づかれない様にそっと耳打ちした。
 「終ったら話したいことがある」
 ゴンは「何?」といったふうに怪訝(けげん)な顔をした。

 昨日の宙太の絵は先生にとても褒められた。
 「遠くの風景の春の感じがとても良く描けています」と言って先生は教室の壁に張り出してくれた。
 宙太は嬉しかった。

 5時間目の授業が終った。
 宙太はさっとカバンをかつぎゴンの側により、小さく「ゴンちゃん行こう」と言って教室を出て行った。
 ゴンも何だろうといった顔つきでついていった。
 校門を出てゴンを待った。
 ゴンが近づいた。

 「宙太、話って何だ」
 「ゴンちゃん、一本松公園へ行こう、決闘の作戦を考えるんだ」
 「作戦? 決闘に作戦なんてあるのか、決闘は出たとこ勝負だ」
 「ゴンちゃん、ダメなんだよ、それじゃ。宮本武蔵はしっかりと作戦を立てたんだから、60回も決闘しても1回も負けなかったんだ。ゴンちゃん、俺も決闘てつだうよ。二人で作戦考えよう」
 ゴンはいやに積極的な宙太に驚いた。そして宮本武蔵という名前を出されてはゴンも逆らえなかった。

 一本松公園に着いた。
 全体の地形、木の一本一本の場所、夕方敵が来る方向、何所から入ってくるだろうか想像した。
 敵は5人だ、大将の村茂はどの辺に立つだろうか、いろいろ推測した。
 諸富小と山領小は一本松公園をはさんで東と西に分かれている。
 山領の5人は西の入り口から来るはずだ。そしてゴンは一人で東から来ると思っているはずだ。
 公園の西から入ってやや中央よりに3人ほど座れる腰掛がある。
 村茂はそこに東を向いて座っているはずだ。
 子分達4人は脇に二人ずつ立っているはずだ。西の入り口付近には、公園の仕切りとして背の低い笹がいっぱいに生い茂っている。その側に大きな枝が四方にいっぱい出ている松ノ木が立っている。子供一人が登っても隠れて見えない位に枝葉がのびている。
 夕日が沈む時間も問題だ。
 1時間ほど公園中を二人で何か落し物でも探しているかのようにあっちこっちと見て回った。
 そして宙太はしっかりと公園中のいろいろなすべての木や物の位置を記憶した。
 昨日から考えている作戦をゴンに話した。
 ゴンは「分った」と意外にも素直に宙太の作戦に従うことにした。
 宙太は家に帰って早速準備に取り掛かった。


 決闘の日が来た。
 5時間目が終ると二人は黙って顔をも合わさずに教室を出た。
 そして急ぎ足で家に帰った。
 30分ほどしてゴンが宙太の家に来た。
 すぐにもう一度作戦の打ち合わせをした。5時のチャイムが鳴った。
 だが、まだ早い。
 公園は子供達がそろそろ帰る頃だ。まだ明るい、もう少し暗くなったほうがいい、二人はじっと待った。
 6時になりややうす暗くなってきた。もうすぐ宙太の母が帰ってくる。
 帰ってきたらまずい、父は所用で出かけている。
 昨日準備した道具をもって一本松公園へと出かけていった。

 二人は遠回りして、公園の南の方から、迂回して西の方に回った。
 敵は何の警戒もしていないはずだ。普通の道を通って北西の方から来る、途中で出会う事はない。
 6時半になった。かなり薄暗くなってきた。西側の竹やぶの隙間から公園の中を覗いた。
 すでに5人は来ていた。
 予想通り真ん中に大将の村茂がいて腰掛の真ん中に座っている。
 腕組みをして足を大きく開いている。両脇に4人の子分が二人ずつ立っている。
 宙太の想像した通りだ。

 「遅いなあ、ゴンのやつおじけずいたな、逃げるつもりかハハハハ」村茂が虚勢をはっている。
 「ゴンは図体がでっかいばっかりで、度胸はからっきしダメだな」
 平吉が言っているのが聞こえた。
 二人は持ってきた防災頭巾をしっかりとかぶった。
 腹には古新聞と古ノートで作った防具をしっかりと巻いていて、その上からセータを着ている。新聞の中には使い古しのノートをしっかりとテープで止めてある。
 腹に巻き、ずれないように紐を上下二本でしっかりと結んである。
 足は靴の上からひざまでをダンボールを巻きつけて、これもテープでしっかりと止めその上からズボンをはいている。
 手にはしっかりと軍手をつけている。

 日がかなり落ちてうす暗くなった。遠くの人の顔ははっきりと見えない位になった。
 辺りは5人の他には誰もいなくなった。風に揺れる木々の音だけがしていた。
 「臆病なやつめ、アハハハハ」勝ち誇ったような5人の笑い声が聞こえた。
 カラスが一羽、カアーカアーと鳴いて西の方へ飛んで行った。
 「今だ、作戦開始」宙太が小さな声で言った。

 つづく