翔べ宙太(みちた)!26  大事なこと


 翌朝、全校朝令があった。
 全校の生徒が校庭に集められた。校長先生が段の上に立った。

 「皆さん、お早うございます。一昨日、わが校の力田宙太君と薮田権君が山領小学校の5人と決闘しました。決闘に到るいきさつは、この中にも被害にあった友達がいると思いますが、山領の5人にこの学校の生徒が何人もいじめられたからです。そのいきさつを知った薮田君は一人で立ち上がりました。それを知った力田君は友達が危険な目に合うのを黙って見ている訳にはいかないと思い、しかも相手は5人、それで助太刀に入った訳です。一昨日の夕方、一本松公園で決闘が行なわれました。しかし、全員怪我ひとつしないで、その後仲直りに到りました。見事な決闘でした。私はみなさんがケンカや決闘をすることを褒めているわけではありません。ケンカはいけません、話し合いで解決できることが一番良い事です」

 「しかし、しかし」そう言って、校長先生は深く深呼吸をした。
 これから大事な事を言う、みんなしっかり聞いてくれと言う思いのきっぱりとした顔つきで「しかし私はあえてみんなに言いたい。時には、困っている人達を助ける為には、また仲間が困難に合っている時には、時として話し合いでは解決できない場合もあります。そんな時には戦う事から逃げないで意を決して立ち向かう勇気も大切です。私はこの小学校に力田宙太君と薮田権君という、仲間のために勇気を持って立ち上がった二人がいることを心から誇りに思います」
 先生の間からパラパラと拍手が起こった。そして生徒達も拍手を始め全体が盛んな拍手に包まれた。
 最後まで拍手をしないで横を向いたままの先生もチラホラいた。


 気持ちの良い夜だった。
 3人での楽しい夕食の後、大介が言った。
 「宙太、久しぶりに父ちゃんと星を見ようか。今夜は良く晴れて星が綺麗だぞ」
 「うん、見よう、見よう、母ちゃんも一緒に見ようよ」
 「母ちゃんは後片付けがあるからいいよ。それより父ちゃんとは久しぶりだから男どおしの話があるだろう」
 母の恵美が言った。大介は笑っていた。

 外に出た。「ジュピター、こい!」宙太はジュピターを犬小屋から出した。
 ジュピターは嬉しそうに尻尾を盛んに振っていた。
 「気持ちのいい夜だなあー」大介が言った。
 「気持ちいいね」宙太が言った。
 「この前もこんな夜だったな、父ちゃんと宙太が星を見ながら約束をした日だよ」
 「うん、父ちゃんが漁に出る前の日だったね。俺ちゃんと約束覚えているよ」
 「北斗七星の一番上の所から始まるんだよね」
 「そうだ、大熊座の背中の真ん中の所だな」
 「一番目が
 1つ 母ちゃんを大切にする
 2つ 正直でいる
 3つ 人には優しくする
 4つ 礼儀正しくする
 5つ 自分の気持ちはハッキリと言う
 6つ 体と心をいつも清潔にする
 7つ 勇気を持つ
              が最後だ」

 「そうだ、父ちゃんは宙太が随分大きくなっているのを見て安心した」
 「この前は引っ込み思案の宙太が少し心配だったが、宙太は大きくなったな。この前のことなんか父ちゃんは嬉しかった」
 宙太はじっと聞いていた。
 「父ちゃんの休みももう終わりだ。あさって漁に行く。船長さんから知らせが来たんだ」
 「もう行くの、早いなー、今度は何所へ行くの」
 「今度は赤道を越えてずーと南だ。オーストラリアの近くまで行くことになっている」
 「わあー、いいなあー、俺も行きたいなあー」
 「こらこら、父ちゃんは仕事で行くんだぞ。観光に行く訳じゃ無いんだよ」
 「だって赤道よりずっと南でしょ。南十字星が見えるんでしょ。俺一度でいいから本物の南十字星を見てみたいなあー」
 「そうか、南十字星か。宙太は南半球の星座はまだ見たことなかったね。よし、今度宙太がもっと大きくなったら、一緒に連れて行ってやろう」
 「エッー」「本当! わーやった! いつ連れて行ってくれるの」
 「そうだなー宙太がもう少し大きくなって、ちゃんと網を引けるようになったらな」
 「うん、なるなる」
 「そのためには体を鍛えとかなきゃいけないぞ。みんなの足手まといになるからな」
 「うん、鍛える、鍛えるよきっと」

 北斗七星が大きく輝いていた。
 宙太は早く大きくなりたいと思った。

 つづく