翔べ宙太(みちた)!31  自分の力を精一杯に出せるもの


 学校では給食の後、1時からホームルームの時間があった。
 テーマは“今度の運動会の時、4年生は全体競技に何をするか”ということだった。

 「司会は学級委員長の柴田さん、いいですか」二宮先生が言った。
 「はい」柴田は当然自分がやるに決まっていると言わんばかりの態度で、さっと教壇に上がった。
 「それでは、これからみんなでやりたい競技は何がいいか、話し合いたいと思います。皆さん一人ずつ手を上げて意見を言って下さい」
 「はい」「はい」「はい」と5〜6人の女の子が手を上げた。
 「長崎さん、何がいいですか」司会の柴田が言った。
 「はい、みんなで仲良くやれるのはやっぱりフォークダンスがいいと思います」

 『出たー』と宙太は思った。女の子と手をつないでダンスなんてとても出来ない、恥しいと思った。
 この意見が出なければいいと思っていた。

 女の子から次々と意見が出た。
 「ソーラン節」「花笠音頭」「八木節」
 女の子はなんで踊りがそんなに好きなんだろうと宙太は思った。
 踊りは宙太には苦手だった。特に女の子と手をつなぐなんて絶対ダメだと思った。
 「女子ばかり意見を言っています。男子からは無いんですか?」
 柴田が男の子を叱咤する様な強い口調で言った。

 男の子は「ウー」と言いながら首をかしげたり、頭に手をやったりするだけで誰も手を上げようとしはなかった。
 「それでは私が指名します」柴田は言った。
 まずいなあーと宙太は思った。
 「それでは、力田君、何がいいか言って下さい」
 「やっぱり」と宙太はつぶやいた。
 宙太は早く終ればいいと思っていた。名人のことが気になっていた。でも何か言わなければ、フォークダンスに決まってしまう。それはまずいと思っていた。

 「何か言いましたか」柴田が言った。
 「いや、何も、・・・俺は騎馬戦がいいです」
 「騎馬戦ですか、他にはありませんか?」
 ゴンが窓の外ばかり見ている。どうでもいいという感じである。
 「薮田君、意見を言って下さい」柴田が言った。
 ビックリした薮田は「えー」と驚いて、「俺ですか、俺は・・・俺も騎馬戦がいい」
 「他に男子の意見はありませんか?」柴田は一人ずつ指名して無理やり男子からの意見を引張りだした。
 綱引きや、棒倒し等、いろいろでた中で男子の意見としては騎馬戦が圧倒的に多かった。

 「いろいろ意見が出ました。ここでまとめます。男子は騎馬戦、女子はフォークダンス、この二つに絞れると思います」
 「男子と女子と別々にするか、1つに決めて一緒にするか、どちらかに決めたいと思います」柴田が言った。
 「皆さんの意見を言ってください」
 「ハアーイ」と長崎が手を上げた。
 「団体競技ですからみんなで一緒にできるフォークダンスがいいと思います。騎馬戦は女子には向きません。それに男子もそういう戦いが苦手の人も多いと思います」

 「力田君、騎馬戦は力田君から初めに出ました。力田君の考えを聞かせて下さい」柴田が言った。
 「男子と女子、別々がいいと思います。騎馬戦はおもしろいから」宙太が言った。
 手をつなぐダンス以外だったら、本当は何でも良かった。早く決着をつけて、すぐにでも天道寺へ走って行きたかった。
 「先ほど長崎さんから戦いが苦手な男子も多いと言う意見が出ましたが、力田君はどう思いますか」
 「フォークダンスが苦手な男もいると思います」そう言うと「そうだ!」「そうだ!」と言う声が上がった。

 「勝手な発言はやめて下さい。手を上げて言って下さい」
 柴田が強い口調で言った。
 ここで、今まで黙って成り行きを見ていた二宮先生が発言した。
 「今、二つの意見があります。女子はみんなでできるフォークダンス、男子は男女別々に騎馬戦とフォークダンスをやると言う意見ですね。もう少しそれぞれの意見を詳しく聞いてみましょう。柴田さんは自分の意見としてはどちらですか」
 「ハイ、私はやっぱりみんな一緒に出来るフォークダンスがいいと思います。仲良くできて、なんだか優しい感じです。騎馬戦は強い人にはいいですけど、弱い人にはかわいそうな感じがします」

 「力田君は騎馬戦がいいと思う理由をもっと詳しく言ってくれますか」二宮先生が言った。
 宙太はここで言わなければ、負けてしまうと思った。
 「騎馬戦は4人が上手く力を合わせないと勝てないんです。俺は力は強くないけど、一人の力は弱くても4人で力を合わせて勝つところが、面白いです。それに終った後は4人がすごく仲良しになった感じがするんです」
 「今、力田君がすごくいい事を言いましたね。騎馬戦は4人のチームワークが大事と言う事ですね」二宮先生が言った。

 「はーい」と長崎が手を上げた。
 「先生、でも勝った人達はいいですけど、負けた人達はかわいそうです。勝ち負けの戦いより、フォークダンスはみんなが楽しめると思います」
 「今の長崎さんの意見はどうですか」二宮先生が言った。
 「賛成でーす」「賛成でーす」とほとんど女子ばかりが手を上げた。
 宙太はまずいなあーと思いながらも、どう言えば男の気持ちがハッキリ伝わるか考えていた。
 このままだと女子の勢いにおされて、男からもフォークダンスに賛成する人が出てきそうに思えた。

 「さっきから何か言いたそうな薮田君、どうかな」二宮先生が言った。
 「俺、騎馬戦が面白い。フォークダンスはどーも」と頭をかきながら、照れたように薮田が言うと、男達からクスクス笑いがもれた。
 「先生、男の人達はフォークダンスは恥しいみたいですけど、そんな事は理由にならないと思います。騎馬戦はやっぱり戦いですから、フォークダンスの方が仲良しな感じで楽しいと思います」柴田が言った。

 宙太は父との約束を思い出した。“自分の気持ちは、ハッキリ言う” 『よしっ』と意を決して立ち上がった。
 「俺は騎馬戦がいいと思う理由は、4人が力を合わせるということと、4人の一人一人が自分の役目にしっかりと力をだせるということです。自分の力をせいいっぱい出せば、仲間と仲良くなれるし、負けても面白いです。俺は勉強は苦手で勉強では柴田さんや長崎さんには勝てません。また男の田中君や山本君にもその他たくさんの人に勝てません。だから自分の力をいっぱいに出せるものがいいです。フォークダンスは仲良しの感じはしますが、自分の力を出すのとは違うと思います。自分の力を精一杯に出すものが、勉強だけじゃなく他にもあった方がいいです」
 宙太がそう言うと、男から一斉に「そうだ!」「そうだ!」「宙太、いいぞ!」「宙太、いいぞ!」という歓声が上がった。

 二宮先生は笑いながら、良く言ったと言わんばかりの顔で、宙太を見ながら言った。
 「まあ、みんな静かに! 静かに! 力田君が正直に男の気持ちを言ってくれました。これで、大体の意見がハッキリしましたね。今日は時間もきましたので、これで今日の話し合いは終りますが、他のクラスの意見とも合わせて結論は次回の話し合いで出したいと思います」二宮先生が締めくくった。

 宙太は精一杯の発言をしたと思った。
 でも本当はそんな事よりもこれからテレビで見る、大空名人の事が気になっていた。

 つづく