翔べ宙太(みちた)!39  数学の天才、一石有斗


 宙太が大空名人のテレビを固唾(かたず)を飲んでみていたとき、大阪に同じ様にじっと身動き一つせず、見つめていたもう一人の少年がいた。
 一石有斗(いっこくゆうと)小学6年生、12歳。
 幼少より神童の誉れ高く、特に数学に秀でた才能を持っていた。
 1年生のときにはすでに掛け算、割り算から分数までも理解していた。
 2年生の頃は中学の数学を終えて4年生の時には、高校の数Vまでも理解していた。
 現在においては既に大学院での博士課程の勉強をしている。

 有斗がよちよち歩きを始めた頃、父は有斗を抱っこして近くの公園に連れて行った。
 おだやかな暖かい日差しとさわやかな風が肌に心地よい日だった。
 公園には大きなドングリの木が生い茂り、その木の下には地面いっぱいに大きなドングリが散らばっていた。
 有斗は大喜びで歩き回っていた。時々つまづいて地面に手をつきながらも、嬉々として歩き回っていた。
 その姿を父はころばないかと、ハラハラしながらも黙って見つめていた。
 やがて有斗は父の所に、歩いてきて握り締めていた右手を開いて父に見せた。
 その小さな手の中には手のひらの半分もあろうかと思われる大きなドングリが1つあった。
 「あー有斗、ドングリだ。良く拾えたね。ドングリ1つだ」
 父は有斗のドングリをつまんで「有斗、ドングリひとつだ」と言って有斗の目の前に見せた。
 有斗はキャッキャッ言って喜んだ。
 振り向いてまたトコトコとドングリの木の下へ行った。
 前に倒れるように両手をついてまた1つドングリを右手に握って、トコトコと父の所へ持って来た。
 そしてまた手を開いてみせた。
 「あードングリだ。良く拾えたね。ドングリひとつだ。ドングリがひとーつ、ふたーつだ」
 父はニコニコしながら、先ほどのドングリと合わせて数えた。
 そして優しく有斗の頭をなでてやった。
 有斗は又キャッキャッ言って喜んだ。
 また振り向くとトコトコとドングリを拾いに行って、1つ持ってきて父に見せた。
 「あー有斗、ドングリだ、ドングリ1つだ。ドングリひとーつ、ふたーつ、みっーつドングリが3つだ」
 そう言って又父はニコニコしながら、有斗の頭をなでてやった。
 その様なくり返しが続いた。そのうち有斗は両手に握って持ってくるようになり、父のハンカチには包みきれないくらいにいっぱいになった。
 「有斗いっぱい拾ったね、有斗は上手だね、お父さんと一緒に数えてみようか、いくつあるかなー」
 そう言って、有斗をアグラの上に抱きながら、有斗の手をとって、ひとーつ、ふたーつ、みーっつと数えながら、ドングリをハンカチの上に置いていった。
 20まで数えた。有斗はそのたびに嬉しそうにキャッキャッと声を出していた。
 その後しばらくそのドングリは有斗の一番のおもちゃになっていた。
 ドングリを並べて、いつもひとーつ、ふたーつ、みーっつと数えていた。
 その様なことがあって以来、2歳の頃は数に対して異常なほど関心を持つようになっていた。

 有斗の父も囲碁を趣味としていた。
 有斗が3歳になった頃、その日は父が囲碁をならべていた。
 そばに来た有斗はそれをしばらくじっと見ていた。父は有斗が5歳位になったら、碁を教えようかと思っていた。
 「何しているの、お父さん」有斗が尋ねた。
 「黒があるだろ、白もあるね。黒がこんなになっているから、ここの数は黒のものだ。白がこんなにあるから、ここの数は白のものだ。上手に並べた方がほらこんなにいっぱい地面を取れるんだよ。黒と白でどっちが上手にならべるか競争なんだよ」
 父はにこにこしながら優しく話した。
 有斗は又じっと黙って見ていた。
 その様なことがあってから、3ヶ月くらい経った。

 それまで十数回父の並べる碁を見ただろうか。ある日いつものように、父が並べているのを有斗はそばでじっと見ていた。
 それまで父は無理に色々教えても、逆効果になると思って何も教えていなかったが、その日は突然「黒73、白75、白2つ多いよ」と有斗が言った。
 「えーっ」と父は有斗の顔を見た。
 有斗はじっと碁盤を見たままだった。
 父が数えてみると、確定地はぴったり有斗が言う通りだった。
 「お父さん、どうしたら、上手に並べられるの、僕も上手に並べられるようになりたい」
 父は夢かと思った。
 「そうか、有斗も上手になりたいか。じゃー一緒にお父さんと並べよう」
 その日から父と子の棋譜並べが始まった。
 休みの日には、近くの囲碁サロンにも行った。有斗が4歳になって、間もない頃だった。
 有斗はめきめき上達した。3年生になる頃は、地元の囲碁サロンの大人は誰もかなわなくなっていた。
 6年生になった今は、いろいろな大人の大会にも出場して、時には優勝する事もあった。

 つづく