翔べ宙太(みちた)!40  一石有斗、アインシュタインに異議


 有斗は大空名人の打ち碁集を並べてさらに上達した。
 正確な大局観と計算に裏付けされた緻密(ちみつ)な碁になっていった。

 6年生になって間もない頃、大空名人の棋譜を並べているとき、突然「ああっー」と大声を出した。
 たまたまそばにいた父が何事かと思って「有斗、どうしたんだ」といった。
 「アインシュタインは間違っている」と大声で叫んだ。
 「アインシュタインの特殊相対性理論の思考実験にはあやまちがある」と言った。

 父は「どういうことだ」と言うと、有斗は紙に絵を書いた。そして父に見せた。
 「動いている電車の中で、真上に光を発射した時、電車の中の人は光は上下に垂直に進んでいる様に見える。従って電車の外にいる人から見ると、その間電車は右方向に進んでいるとすると、図の様に山の形になって、電車の中の人が見た光より長い距離を進むように見える、というのがアインシュタインの言っている思考実験だよ」と有斗は父に説明した。

 「でもお父さん、これは慣性の法則にまどわされているんです。これではボールの動きと同じです。光は慣性の法則は受けません。従って、Aの光源を発射した光は、その時点での空間上の座標AB上をまっすぐに上にゆくはずです。電車のスピードとは全く関係なく、その発射した瞬間の空間の垂直の座標にそって上にゆくはずです。光が電車の天井につくまでの時間に電車は右に進んでいる訳ですから、光が天井に届く時はBは少し右にずれていてB1に光は届くはずです。すると今度はB1から反射した光は同じ様にA2に届くはずです。すると電車のなかにいる人から見ると、図2の様にあたかも光は後ろ斜めにとんでいるように見えるはずです。しかし電車の外の人から見れば、光が発射した瞬間の座標上を上下しているだけなんです」

 「実際、光のとび方は垂直に上下しているだけで、電車の中にいる人は図2の様に斜め後ろに飛んでいるように感じるだけで、それは単なる錯覚(さっかく)なんです。光そのものは、図1のA−Bの座標軸上を上下しているだけです。図3のA2−B2が、光が発射した瞬間の図1のA−Bの座標軸なんです。光は電車の中の人から見ても実際に飛ぶ距離は同じです」

 父は絶句した。わが子が、わずか小学6年生の少年が、アインシュタインの理論に異を唱えるとは。ただじっとわが息子を見つめるだけだった。

 このようにして、九州に力田宙太10歳、東京に天田明11歳、大阪に一石有斗12歳、それぞれに趣(おもむき)は異なるが、期せずして大天才が出現した。
 三人の天才少年は、両親と周りの理解者に恵まれてすくすくと成長していった。
 そして夏の子供囲碁大会で相まみえることとなる。地元の多くの人達の期待を背負って。

 つづく