翔べ宙太(みちた)!41  宙太 評


 宙太が碁が強いという評判は、学校でも知れ渡ってきた。
 「宙太君は碁がとっても強いそうだね。先生はちっとも知らなかったけど、いつ頃に碁を覚えたのかな」二宮先生が聞いた。
 「四年生になってからだよ。4月の中くらいだよ」
 「そうかまだ3ヶ月くらいしか経っていないのに、随分強いって言う評判だよ。碁はとっても難しくて、強くなるには大変なんだよ」二宮先生が言った。
 「うーん、難しいかどうかよく分らないけど、絵を描くのと一緒だよ。自分の描きたいように集中すれば、大丈夫だよ」
 「そういえば、宙太君は最近、勉強の方も随分良くなったね。苦手の算数も良くなったし、特に絵は前から上手だったけど最近一段と良くなったね。絵も習っているのかな」
 「絵は習ってないよ。でも、絵は好きだから、色々と想像できるんだ。どんな線がつりあいがいいか考えているとね、楽しいんだよ。碁と似てる様な感じもするよ」
 「宙太君、実はね先生も碁は大好きなんだ。宙太君のように強くは無いけどね。大学生の頃覚えてね、今は三段くらいなんだ」
 「えーっ、二宮先生も碁が好きなの、嬉しいなあー」
 「今度来た校長先生も碁が大好きなんだ。校長先生はとても強くてね、六段だよ。時々先生は呼ばれて校長先生と打つけどね、私が3子置いても仲々勝てないんだ。宙太君の噂が校長先生の耳にも入ってね、是非一度、宙太君と打ってみたいっておっしゃっていたよ」
 「えーっ、うん、打つよ打つよ、いつ打てばいいの」
 「よし、じゃ今日放課後、早速校長先生に話しておくよ」

 宙太は学校から帰ると直ぐに、天道寺にとんで行った。
 境内を走りながら「和尚さーん、二宮先生も校長先生も碁が好きなんだって、今度俺と校長先生が打ちたいんだって」
 「うん、さっき二宮先生から電話があったよ。明日土曜だから、朝10時にここへ一緒に来るそうだ、いいかな宙太は」
 「うん、いいよ、楽しみだなー」

 「宙太、今度の全国大会に出てみたいと思わないか。全国にはすごい子供達がたくさんいるよ。すごい子と友達になってみたいと思わないか」
 「うん、出てみたい。でも俺出られるかなあー」
 「うん、その前に九州代表にならないとダメなんだ。九州大会が福岡で今月の20日にある。あと2週間だ。きっと琢也君も出るだろう。それに、福岡にも強い子がいるそうだ。九州代表は一人だから、厳しいけど宙太だったらきっと代表になれるよ。今日私が宙太の名前で申し込んだよ。だから今日から特訓だ」
 「うん、特訓だね」
 「よし、特訓を始めよう」草心と宙太の真剣勝負が始まった。


 翌日、校長先生と二宮先生が学校で待ち合わせることになった。
 「お早うございます」二宮先生が校長先生へ言った。
 「やあ、二宮先生、お早うございます」
 「今日は楽しみですね、力田君はどんな碁を打つんでしょうね。二宮先生は力田君の碁を見たことはありますか」
 「いえ、まだ見たことはありません。噂では大変な力戦家で、読みの力がすごいということです」
 「そうですか、いつの間にそんな力がついたんでしょうね」
 校長先生と二宮先生は、歩きながら話し始めた。

 「前々から私は二宮先生に相談しようと思っていたんですが、我が校でも、どうですか囲碁クラブを作ってみては」
 「そうです、そうなんですよ、私もそう思っていました。今、子供達に勉強だけではなくてそれ以外のクラブ活動を通して、色々な事が教えられると思っていたんです」
 「囲碁は面白いと子供達が感じる前に興味をなくしてしまうことが多いですから、その点をどう克服するかが問題ですね」校長先生が言った。
 「そうですね、その点が一番難しい所ですね」
 「それに私は思うのですが」二宮先生が続けて言った。
 「親の理解がないと、なかなか長続きしないですね。両親どちらかが、碁が好きならばいいですが、ほとんどの場合、囲碁には関心がない場合が多いですから、まず親に対して囲碁の効用といいますか、囲碁が教育上、素晴らしくいいという事を校長先生から父兄に訴えていただけたらいいと思うのですが」

 「そうですね、でもそれには私よりももっと適任者がいるんですよ。学生の時の同期に、日之輪君というのがいましてね。今、大学の教授をやっているんですが、彼が仲々の見識を持っているんですよ、囲碁に対してね。専門が哲学なもんでね、先日も、大空名人と一緒にテレビに出て、囲碁について語っていたんですよ」
 「私も見ました。校長先生は教授とお友達だったんですか」
 「彼とは、よく対局しているんですよ、ネットでね。いい勝負ですよ。今度彼に一度九州に来てもらって、お母さん達に講演してもらいましょうよ。私のような田舎の校長先生より東京の教授が言えば、説得力は全然違うでしょう」
 二宮先生は笑いながら「来て頂けたらいいですね」

 彼から聞いた話ですが、と言って校長先生が続けた「東京にはすごい天才が出てきたらしいね。5年生で作曲もするとかで、それも相当のレベルらしくてね。なんでも大空名人の棋譜を並べていると、その中から曲が流れてくるらしい。それを楽譜に書き留めると、そんまま美しい曲が出来上がっていると言うんですよ。まるでモーツアルトのようだと。モーツアルトは楽譜をすごいスピードで書いて、全く修正しなかったそうですね。碁も東京都代表間違いないそうですよ」
 「そうですか、それと同じ様な話ですけど校長先生、私も大阪にいる先輩から聞いた話ですが、6年生で数学の天才がいるそうですよ。すでに大学院の数学専門課程を勉強しているそうなんです。その子が碁も強くて、関西代表になるらしいとのことですよ」
 「そりゃ、すごいですね」

 「ところで、力田君は、勉強の方はどうですか」
 校長先生が二宮先生に尋ねた。
 「力田君は、特にこれと言って目だった科目はありません。本人の中では絵が秀でてると言えますが、これも特別に優れていると言うわけではありません。ただ・・・」
 「ただ?」
 「はい、勉強では無いんですが、力田君は例えば、クラス全体の雰囲気をまとめる力がある様な感じがするんですよ」
 「ほうー」
 「色々な意見が対立した時、力田君は実に率直に自分の気持ちを表現できるんです。それが、人を傷つけたりすることが無いんですね。実に明るく抵抗勢力の力を消してしまう様な不思議な雰囲気を持っているんですよ」
 「えーっ、それはすごい、それは将来が楽しみですね。確かに音学とか、数学とか、一つの限られた分野に秀でた才能を持っている子は結構いることはいるんですよ。しかし力田君の様な、人をまとめる様な力と言いますか、そんな子は古今東西本当に少ないですよ」
 「ええ、そうなんです。その辺の所を天道寺の草心和尚さんもおっしゃっているんですよ。」
 「草心和尚は、碁に触れたことによって、自分の気持ちに対して、自信のようなものが湧いてきたと。碁を通して全体の調和を図るような考え方が、宙太本来の精神的な才能に良い影響を与えているのではないかと言うことですね」
 「そう、そう、そうですね」校長先生が言った。
 「力田君を是非、全国大会へ出したいね。そして東京、大阪の二人の天才と思う存分戦わせてやりたいね。どんなことになるんでしょうね、想像しただけでワクワクしますね。でも二人の天才の話は力田君には内緒にしておきましょう。先入観を与えない方がいいでしょう」
 校長先生の言葉に
 「そうですね是非、力田君を二人と戦わせて見たいですね」二宮先生が言った。

 そう言う話をしているうちに、天道寺が見えて来た。

 つづく