翔べ宙太(みちた)!43  リマ婆さんの肉じゃがを囲んで


 「お母さん、この肉じゃが、本当においしいですよ。力田君の言うとおりだ。この佐賀のメークインは肉じゃがにはやっぱり一番ですね」校長先生が言った。
 「おいしいです。学生の頃にいた関東では、メークインは少ないんですよ。やっぱり肉じゃがには佐賀のメークインですね」
 「わたしゃうれしいね。そういえば、亡くなった竹次さんは、メークインを作るのが上手だったね。私も若い頃は良く手伝いに田んぼに出たもんだよ。そしたらね清二さんがやきもちを焼いてね『何で、竹次にばかり優しくするんだ』と言うんだよ。だから言ってやったのさ、あんさんみたいなケチな男に優しくする女なんかいないよって。竹次さんはいつも獲れたばかりのフナとかドジョウをいっぱい持って来てくれていたんだよ」
 その話に皆がどっと笑った。
 「お母さんは美人だからもてたんですねー」
 校長先生が言った。
 皆が笑った。
 「校長先生これからいつでも来て下さいね。また肉じゃが作りますから」
 リマ婆さんはとても嬉しそうだった。

 「ごちそうさま、俺ジュピターと遊んでいる」
 そう言って、宙太は境内へ走って行った。
 「和尚さん」校長先生が切り出した。
 「力田君はまだ、覚えて3ヶ月程度と言うじゃないですか。恐るべき才能すね」
 「そうです。私が何を教えたと言うわけでもないんです。しいて言えば詰碁のルール位ですか」
 そう言って、草心は今までの大まかないきさつを話した。
 「大空名人の棋譜を私と一緒に並べて、色々検討するんですよ。それで飛躍的に進歩しましたね。いや、進歩と言うより宙太の場合は進化しているんですよ」
 「進化、と言いますと?」
 校長先生が聞き返した。
 二宮先生は草心の次の言葉をじっと待った。
 「碁の技術が進歩している事は勿論ですが、あの子の気持ちがそれ以上に大きくなっているんですよ。私が1つだけ気をつけていることは、勝ちたい気持ちで碁を打つなということです。碁は石と石との生存競合であると言う碁の本質を教えました。自分と他者との調和を図ること、相手以上に自分ばかりが良くなることは絶対にない訳ですから、競争の中にも調和が必要であると言う事を、説明した訳ですが、そう言う考え方に対してのあの子の感性と言いますか、驚くほど率直なんですね。教えれば、教えただけ吸収して、そのまま実戦できるんです。その辺りが驚くべき才能だと思っているんですよ」
 「そうですか、力田君とタイプは違いますが、東京と大阪にこれまた、とんでもない少年が二人いるそうですよ。ここへ来る道々、二宮先生とも話してきましたが」
 「そうなんですね、それは私も東京の友人からの連絡でつい最近知ったんですよ。大阪にもいるんですか。友人も九州にはそう言った子はいるのかと言う質問でしたが、私はあえて宙太のことは言わなかったんですけど、宙太をその二人と思う存分戦わせたいですね。だから何としても宙太を全国大会に出してやりたいんですよ」
 草心が熱っぽく語った。
 リマ婆さんが口を出した。
 「校長先生、草心は宙太のこととなると、話が止まらなくなるんですよ。わたしゃ宙太が赤ん坊の頃から抱っこしているんですよ、そりゃー人見知りの強い子でね、ひいたれだったねー、でも目元がとってもきれいな子でね。1才の頃だったかねーよちよち歩きの頃、ちょっと目を離したら一人で境内の外へ出て行ってしまってね、外ではキャンキャン子犬の鳴き声がしていたんだよ、凶暴なノラ犬に吠えられていたんだね、危ないと思って走って追っかけて行ったら、宙太がその子犬を抱っこしていたんだ、その子犬を抱っこしたまま吠えている犬に近づいて『よし、よし』と言っているんだね、凶暴な犬はしゅんと首をうなだれておとなしくなった。わたしゃビックリしたね、この子はお釈迦様(おしゃかさま)の生まれ変わりかも知れないとその時は思ったね」
 「そうでしたか、そんな事があったんですか。そう言えば、力田君の存在はクラスでは、ものすごく大きいんですよ」
 二宮先生が言った。そして続けた。
 「これと言って勉強で秀でたものは今のところは無いんですが、力田君は皆をまとめる力と言いますか、まとめる努力じゃないんですね、皆が自然と、ほとんど無抵抗に宙太君に従うんですよ。従うと言ったら表現が悪いですね、力田君はそう言う意識は全然無いんですよ、自然と皆が力田君の周りに集まるといった方が一番適切でしょうか、輪が明るいんですよ」
 リマ婆さんを入れて四人は宙太の不思議な力を、食事の後、熱っぽく語り合っていた。

 つづく