翔べ宙太(みちた)!49  九州大会、優勝インタビュー


 優勝のインタビューが始まった。
 福岡の放送局のアナウンサーが来た。
 「力田君、優勝おめでとう。決勝戦はすごい戦いでした。また一回戦もきわどい半目勝ちでした。今優勝してどんな気持ちですか?」
 「うれしいです」
 「優勝できると思っていましたか?」
 「優勝できるかどうかは考えませんでした。でも東京に絶対に行くと思って打ちました」
 「東京に絶対行くと思ったのは、どうしてですか? 優勝したいと言う気持ちと違いますか」
 「東京に絶対行きたいのは、ディズニーランドに行けるから、和尚さんが東京に行ったら、連れて行ってくれるって約束したんだ」
 周りの皆から大きな笑いが聞こえた。

 「そうですか、力田君はディズニーランドに行きたかったから頑張ったんだね。一回戦の下岡君と決勝戦の小山君は、二人とも今大会の優勝候補になっていた友達ですよ。その二人を激しい戦いで破った力田君は、今までどの大会も出ていなかったね。今回の大会が初めての大会ですか?」
 「はい」
 「力田君はいつ碁を覚えたの?」
 「うーーん、わかんないなあー」宙太はあえて分からないと言った。

 4月の中ごろ、和尚さんに教わった時の事を話せば、また皆びっくりして、色々な事を聞いてくる。それが今までの経験で分かっていた。また同じ事を聞かれて同じ様な事を話さなければいけなくなってしまう。
 そうすると、皆驚いて、ものすごく褒めてくれる。
 自分は何も特別の事をしているわけでもないのに、周りの人に褒められたりすごいと言われると、いつも不思議な気持ちになっていた。
 どうして大人達はそんな風にいつも俺のことを言うのだろうと宙太は思っていた。

 「力田君はいつ覚えたか思い出せない位小さいころから、自然に碁を覚えたということですね」
 「はい」隣で聞いていた草心が笑っていた。
 「さっき和尚さんがディズニーランドへ連れて行ってくれるって約束したと力田君は言いましたね。その和尚さんは今、来ていらっしゃいますか?」
 「はい」宙太が和尚さんの方を見た。
 「あっ、和尚さんですか」
 「はい、秋月と申します」
 「和尚さんに一言伺いたいと思います」
 「力田君は今まで、まあ、どちらかというと無名でした。本日優勝候補二人、しかも二人とも6年生ですよ。2局ともすごい戦いを制しました。力田君は急激に強くなったと思いますが、その辺の秘密と言いますか、どうして4年生の少年がこれほど伸びたのか、お教えいただけますか」
 「うーん」草心はわらいながら、宙太を見ていた。

 宙太も草心が何を言うかとじっと真剣な顔で草心を見ていた。
 草心はニコニコしながらもすごく困った顔をしていた。
 宙太は草心のこんな顔を見たのは、初めてだった。
 さっきまではあれほど俺がピンチの時でも、和尚さんは自信に満ちた顔でニコニコ笑っていたのにと宙太は思った。

 草心は宙太本人を前にしてどう言えばいいのか本当に困っていた。
 宙太の事を自慢っぽく言うのだけは避けたかった。
 アナウンサーが言葉の出ない草心に強く発言をうながした。
 「どうしたら、こんなに強い子が出来るのか、皆が知りたいと思っていると思います。是非一言教えて下さいませんか」
 意を決して草心は言った。
 「宙太は、私の厳しい特訓にもよく耐えました。そして私の言う事を全部吸収したと思います」
 「そうですか、力田君はすごい吸収力を持っていると言うことですね」

 草心はまずいと思った。本人を前にして、すごいと言うような宙太を特別扱いをする様な言葉が出ることを恐れていたのだ。
 「いいえ、すごいと言う事ではないんです。皆その吸収力は同じ様に持っているんです。どんな子でも」
 「えっー、皆そんな吸収力を持っているんですか」
 「はい、皆持っています。でも皆が吸収しようとしないだけです。宙太は素直に吸収しただけです」
 「そうですか、皆も力田君と同じ様に素直に吸収すれば、強くなれるという事ですね」
 「今日は本当に優勝おめでとうございます。宙太君、東京に行ったらディズニーランドは楽しみだね」
 「はい、ありがとうございました」

 つづく