翔べ宙太(みちた)!55  成長


 夢の続き。
 それまでそばで泣いていたと思ったカヨはニッコリ笑っていた。
 カヨと思っていたらそれは初恵だった。
 「みっちゃん、良かったね」と初恵が嬉しそうに言った。
 「私には分っていたの、みっちゃんは途中でピンチになるかもしれないって、でも最後はきっと勝つって」
 初恵はしっかりした顔で言った。
 今までの初恵の弱々しい面影はすっかり消えてしまっていた。
 宙太よりも年上の様にも見える表情をしていた。
 「えーっ、はっちゃんどうして、どうしてそう思ったの」
 宙太は不思議に思って尋ねた。
 「私にはみっちゃんのことが見えるの、だから絶対に応援に行きたかったのね。みっちゃんは優しいからピンチになることがあると思う。でも、みっちゃんは強いって私は信じているよ。だからみっちゃんは絶対負けないって信じているの」
 宙太は初恵の言葉に圧倒されていた。
 まるでお姉さんに優しく諭されている様な気持ちになった。
 「みっちゃん」初恵は続けた。
 「東京でも頑張ってね。私本当は東京へ応援に行きたいけど、無理言えないから、家で応援している。みっちゃんは苦しんでも、きっと最後は大丈夫、初恵には分るの」

 翌朝早く、草心が訪ねて来た。
 宙太はまだ少し頭痛がするということで床に入ったままだった。
 母の恵美が草心と話した。草心は少しがっかりした様子だったが、今までの無理が出たことに、申し訳なさそうな顔をして言った。
 「そうですか、じゃちょっと宙太に話しときます。ちょっといいですか」
 そう言って部屋に上がって、宙太の寝ている所へ行った。
 「お早う宙太、少し熱が出たんだって、今まで良く頑張ったからな」
 「あっ和尚さん、今日の特訓は大丈夫です」
 「いや、いや、いいんだ、宙太、今日と明日2日間は宙太はゆっくり休みなさい。和尚さんは今日東京へ行くんだ」
 「えーっ東京へ」
 「そうだ、東京へ行く。明日東京代表を決める大会があるんだ」
 宙太はビックリした顔で何の為に和尚さんは行くのだろうと思った。草心の顔をじっと見ていた。
 「東京代表は強いと思うんだ。沢山の人から選ばれてくるからね」
 草心はあえて天田の話は出さなかった。
 「だから代表に選ばれる子がどんな碁を打つかじっくり見てこようと思っているんだ。宙太と打つことになるからね」
 「はい」
 「和尚さんがいない時は大空名人の碁を並べるといいよ。ゆっくりと名人の打った手の雰囲気を感じながら並べるんだ」
 「じゃ宙太、ゆっくり休め、和尚さんが帰ってきたらまた特訓開始だ」
 と言って部屋を出て行った。

 宙太は草心の後ろ姿をじっと見ていた。
 『和尚さんは俺の為にあんなに一生懸命なんだ。俺が勝ったら和尚さんは喜ぶんだ。二宮先生も校長先生も、初恵ちゃんも。母ちゃんと父ちゃんはきっと一番喜ぶんだ』
 宙太は思った『負けちゃいけないんだ』宙太はふっとつぶやいた。
 そのままうとうととしてまた眠ってしまった。

 お昼近くなって目を覚ました。今朝まであった頭痛もすっかり無くなっていた。
 「宙太起きたのかい、お腹すかないかい」宙太の起きた気配を感じて、母が声をかけた。今日は宙太の為に仕事を休んだのだ。
 「ハラへったー。俺いっぱい夢を見た。神様とはっちゃんが出てきた」
 「えーっ」母が言った。
 「はっちゃん、なんだかお姉さんになったみたいだったよ」
 「えーっ初恵ちゃんが、そうだねそう言えば、最近お姉ちゃんぽっくなってきたね」
 宙太は母親に夢の話をしながら食事をしていた。
 「みっちゃんいるーう」玄関で声がした。
 「こんにちはー初恵でーす。みっちゃんいますかー」初恵が大きな声で宙太を呼んでいた。
 「あっーはっちゃんだ」
 「はっちゃん、上がってきて、俺今メシ食っているから上がっていいよ」
 宙太は大きな声で言った。
 「おじゃましまーす」初恵はそう言うとトコトコと上がってきた。
 「みっちゃん、風邪大丈夫、よくなった」
 「うん、もう良くなったよ、大丈夫だ。はっちゃん今日俺と一緒に碁の勉強しよう」
 「うわーうれしい、みっちゃん教えてくれるの、私やる、今度三星で大会があるのね、初心者大会に出るから私も頑張る」

 つづく