翔べ宙太(みちた)!65  皆の応援、宙太の思い


 「みっちゃん、大会頑張ってね。絶対優勝してね」
 突然、初恵が言った。
 皆一斉に初恵を見た。
 「私、みっちゃんの力信じているの。私はみっちゃんみたいに強くなれないけど、私この前の三星の大会で初級クラスで準優勝だったけど、とっても嬉しかった。けど本当は悔しかった。全国大会だから優勝すれば、日本一でしょう。私は日本一になれないから、私のみっちゃんが日本一になったら、私は自分がなるより嬉しいわ」
 初恵の大人びた言葉に皆唖然とした表情で初恵を見ていた。
 「うん、俺ガンバル、そして優勝する」
 「宙太」草心が言った。
 「宙太、本当―」母が言った。
 「うん、俺、絶対ガンバル。皆、俺のこと応援してくれているし、今まで東京に行けば、和尚さんがディズニーランドへ連れて行ってくれるって言ったから、ガンバッてきたんだ。でも今は違う」
 「どう違うんだ」草心が言った。
 「ディズニーランドは行きたい、でも今はもっと大きい事ができたんだ・・・・」
 「もっと大きいことって」母が言った。
 皆じっと宙太を見ていた。
 「俺、天田君と一石君と絶対に友達になりたいんだ。天田君は作曲もできるんだよ、一石君はすごく頭がいいんだよ、算数は大学生よりすごいんだって。俺は勉強では二人に適わないんだ、だから碁では負けられないんだ。もし、碁でもダメなら俺と友達になりたいなんて、天田君も一石君も思わないかも知れないよね。だから碁に勝てば、きっと俺のこと認めてくれるよね」
 「うん、うん、そうか、そうか」草心は心の動揺を抑えるかのように、努めて平静を保っていた。
 『ガンバレ、勝て』とか言う言葉を努めて言わないようにしていた。
 宙太がのびのびと力を出す為には、その様な重圧に感じる言葉は触れない方がいいと思っていた。
 「そうだ、宙太君よく言った。天田君も一石君もきっと宙太君と友達になりたいと思っているよ、間違いないよ」
 校長先生が言った。
 「へへへへーほんとう! うれしいなあー」
 「天田君と一石君と友達になれたらすごいよね。それにー・・・」
 そう言って宙太はちょっと照れたような顔をした。
 「それに?」「それに?」「えーっ」
 皆が一斉に何だろうと言った顔つきで宙太を見た。
 「みっちゃん、それにってなあに」
 初恵が早く教えてと言わんばかりに、宙太の袖口をつかんで盛んに引張った。
 「それに・・・」宙太は顔を少し赤らめて、ためらいがちに言った。
 「父ちゃんが褒めてくれるから、俺優勝したら、宙太良くやったってきっと褒めてくれるよ。宙太大きくなったなってきっと褒めてくれると思うから」
 母の恵美は潤んだ目をじっとこらえながら、宙太を見ていた。
 「そうだな、きっと褒めてくれるよ。宙太はお父さんに褒められるのが一番嬉しいんだよね」
 草心は深く納得した気持ちになった。やっぱり父親には適わない、それは仕方の無い事だ。草心は自分に言い聞かせた。
 「ミーちゃんは大きくなった」それまでじっと皆の話を聞いていたリマ婆さんが大きな声で言った。
 「あのひーたれミーちゃんが大きくなったもんたい。大人たちが詰まらん心配ばっかりしょうちに、子供はどんどんどんどん大きくなっていきよったい。ミーちゃん力いっぱい戦って来い、皆が応援しょったい。皆の力がミーちゃんのタマシイの中に入って力ば何倍にもしてくれるけん、何も恐かこと無か」
 「みっちゃん、私もついてる」
 初恵は私のことも忘れないでねと言わんばかりの勢いで言った。
 その時、電話がなった。
 草心がさっとたって奥へ行った。
 「初恵ちゃん、東京から帰って来たら、また打とうね」宙太が言った。
 「うん、私今大空名人の碁を並べているのよ。時々夢の中にも碁が出てくるよ」
 「そうかあー、初恵ちゃん、きっと強くなるよ」
 しばらく話していた草心が戻ってきた。
 「和尚さん、電話って誰から?」
 「うん、何でもない昔の友達だ」
 「さあー食べよう」
 今まで皆の世話ばかりしていた、リマ婆さんと恵美がゆっくりと食べ始めた。
 「おいしかったー」「おいしかったねー」
 皆の笑い声が、境内の闇の中に消えて行った。

 つづく