翔べ宙太(みちた)!F  宙太の才能


 草心は先ほどから落ちつかなかった。
 何とか宙太に碁盤の方を見て欲しかったが、なかなか見ないので、たまりかねて、
 「宙太ちょっとこっちに来て、ここに並べてある、碁石を見てくれないか」
 「えーどうして、俺碁なんて知らないよ」
 「いやいや、知らなくていいんだ。ここに並べている石をじっと見てくれないか」
 「見るだけなの・・・見たよ」
 「いやそうじゃなくて、碁盤全体をよおく見てくれないかな。2,3分でいいよ」
 「ふーん、どうして」
 宙太は草心にそう言われたからなのか、腕組みをしながら、碁盤の前にあぐらをかいて、あたかも考えているかのような格好で、「うーん」と言いながら、首を上下左右に振りながら、並べられた石を眺めていた。

 そうこうしている内に、3,4分が経った。
 草心は宙太の反対側に座り、いきなり並べてあった石を両手で崩した。
 「あっ! どうしたの和尚さん」
 「宙太、この前みたいにもう一度さっきの通りに並べてくれないか」
 「えっー、俺そんなこと、できないよ」
 「えっなぜだね、宙太はこの前はできたじゃないか。この前は150個も並べてあったんだぞ。今日はその半分位しか並べてなかったんだから、できない訳ないだろう」
 草心は落胆と同時に少しいら立ったような言い方をした。
 そしてすぐにいら立ったような言い方に気がついて反省した。

 宙太にプレッシャーを掛けてはいけないと、気を取り直し、努めて柔らかい口調で、
 「いいんだ、いいんだ、この前和尚さんは少しビックリしてね。宙太は碁が強いんじゃないかと、勘違いしたんだ」
 「この前は、和尚さんが星の研究していると思ったからね。俺は星が好きだから覚えられるんだ」
 「へえーそうか、星だったら覚えられるのか」
 「うん」
 そういうなり、宙太は白石を持って、碁盤の上にすごいスピードで並べ出した。
 「これがシシ座、これがカニ座、これがケンタウルス座、この石をこっちに持ってきて、こう並べ直すとてんびん座になるよ」
 「わかった、わかった」草心は右手を前に出して、宙太の手の動きを止めるような格好で答えた。

 「宙太は星座を覚えているのか」
 「うん、星座は全部で88あるんだよ。でも色々星の組み合わせを変えると、いくらでも自分の星座が作れるんだよ」
 「宙太はいくつ位覚えているんだ」
 「本にあるのは88だけど、自分で作ったのを入れると、300位かな」
 「へえーそうすると、その中にいっぱい星が光っているわけだね」
 「うん、星は一等星、二等星と光の強い順番に5等星までは見えるんだよ」
 「そうすると、星座の中に光っている星の場所を、宙太は覚えていると言うわけか」
 「うん」
 「どの位の星の数を覚えているんだい?」
 「良くわかんないな。いくつあるのか数えたことないから。10個位の少ない星座もたくさんあるし、50個以上の多い星座もたくさんあるし。一番多いのはケンタウルス座でやっと見える星まで数えると101もあるんだよ。だから多分、全部で3000個位かな」
 「へえー、宙太はその3000個の星の場所を覚えているって訳かー」
 「うん、どうして? 見てたらすぐ覚えるよ! でも春夏秋冬と出てくる星座が違うから、全部覚えるには一年はかかるよ」
 「いやいや、一年どころか、和尚さんには一生かかっても、無理だ」
 草心はただただ呆れるばかりだった。

 「じゃー、俺が教えてあげる。ほらこれが、・・・」と言って、宙太がまた何かの星座を並べようとした時、いつものように5時のチャイムがかすかに聴こえた。
 「あっ! 5時だ。和尚さんまた明日来るね。一緒に星座の勉強しようね」
 そう言うなり、宙太は縁から飛び降りて、またパタパタと足の裏の砂を手で払って、靴を履くやいなや走って帰っていった。
 「ジュピター、来い帰るぞ」
 草心はまたまたポカンとした顔で、宙太が駆け抜けていった、薄暗くなった門を見ていた。
 宙太に碁を教えるどころか、宙太から星座を教わることになるとは、草心は一人苦笑した。

 草心は母親との夕食の時、今日のいきさつを話しながら、二人で大笑いした。
 「ミイラ取りがミイラになるとはこのことだね。お前は明日から、宙太に星座を教わるのかい。はははは」
 リマ婆さんは、おかしくてたまらないと言った様子で笑いこけていた。
 「母さん、そんなに笑わないで」
 「ありゃーただ者じゃなかよ。お前よりゃよっぽどの器だよ」
 草心「・・・・・」
 苦笑いしながら何かじっと考えていた。
 「かあさん、いやっこれはチャンスかもしれんよ」
 草心は何か考えているような表情をした。
 「何か考えがあるのかい」
 「うん」