翔べ宙太(みちた)!70  友達


 「半目ですか」天田が言った。
 「はい、黒盤面で6目です」
 「それじゃ、念のため並べて見ましょう」係りの人が言った。
 並べ終わって黒盤面でぴったり6目だった。
 「コミ6目半を引いて白天田君の半目勝ちです」係りの人が宣言した。
 周りの観衆から一斉に拍手が起きた。

 宙太は草心を探した。草心は宙太に近づいた。
 「和尚さん、俺全部の力を出したよ。天田君はやっぱりすごいね。また天田君と打ちたいなあー」宙太は晴れ晴れとした声で言った。
 「うん、いい碁だった」草心はそう言うのが精一杯だった。
 あとはぐっとこみ上げてくるものを必死で抑えた。
 名人が二人のそばに来た。
 「あっ、大空名人」二人はそばに立っている名人を見上げながら同時に声を出した。
 「いい碁だった。いい碁だった。久しぶりに気持ちのいい碁を見せてもらったよ」
 そう言って名人は二人の肩に手を置いて、グィッと力をいれた。

 宙太と天田は立ち上がった。
 そこに一石が近づいて来た。
 「素晴らしい碁だったね」一石が言った。
 二人は黙ってニッコリと笑った。
 「これで、何かきっと素晴らしいことが起こるでしょう」一石が誰に言うとも無く独り言の様に言った。
 「何か素晴らしいことって」草心が一石を見つめながら尋ねた。
 「素晴らしいことって?」教授も尋ねた。
 「奇跡のような素晴らしいことです。皆にとって、勿論私にとっても」
 一石は笑いながらそう言うとさっと振り向いて去って行った。

 二局目から五局目までは順調に終った。
 一日目5局を終って、宙太は4勝1敗、天田と一石は当然の様に5勝を上げた。
 「宙太、今日は良く戦った。天田君との碁は半目足りなかったが、でも内容は決して負けてなかったよ」草心は言った。
 「うん、俺自分でもビックリしているんだ。色々な手が浮かんで来るんだよ。天田君のそばにいたんで、天田君のパワーが俺に移ってるのかなー」
 「そうかも知れないなー」草心は笑っていた。
 「宙太、天田くんとの対局の時、気がついたんだが、宙太は今日一度も神様の石は握らなかったね」
 「うん、俺、今まで危ない時は神様に助けられて来たけど、決めたんだ、これからは自分の力でガンバル」
 「そうかあーそうかあー」
 「天田君と一石君と自分の力で、力いっぱい打ちたいんだ。神様の力を借りたんじゃ二人に悪いよ。二人と打てるって事は、とってもすごいことなんだよね。二人と本当の友達になりたいから、自分の力だけで、全部力を出して打ちたいんだ」
 「そうか、そうだね」草心は言葉が無かった。

 二日目が来た。
 二日目は4局、午前中の2局は一石とは当らなかった為6勝1敗と星を伸ばした。
 天田と一石は7勝全勝のままだった。
 昼食休憩の時、三人は一緒に食事した。
 「碁はとても面白いけど、皆は面白いと感じる様になる前に止めてしまうんだ」一石が言った。
 「そうですね、皆は勝つことばかり考えるから、面白く無くなるんですよ。勝つことよりも自分の気持ちをどの様に表現するか考えれば、いいと思うんですが」
 天田が話した。

 「初恵ちゃんは碁を覚えてからとっても元気になったよ。自分の気持ちがハッキリ言えるようになったんだよ」宙太が言った。
 「そうなんです。勝つ事は結果ですから、あまり意識する必要はないんです。一生懸命考えて、考えることが他の面にも良い影響が出るんですよ」天田が言った。
 「私は来年は中学だから、この大会には出られないけど、この大会で二人と出会ったのは、とても良かったと思っています。終ってからも青少年協会のネットで打ちましょう」
 一石が言った。
 「いいですね。私はこの後、昨日の力田君との碁を作曲したいと思っています。今まで作ったどの曲よりも良い曲が出来ると思います」
 「俺帰ったら、運動するんだ」

 「運動ですか」天田が尋ねた。
 「力田君はスポーツも好きですか」一石が尋ねた。
 「俺、スタミナつけて、力強くならないと、父ちゃんの船に乗れないんだ。父ちゃんの船に乗って、仕事の手伝いが出来る様になると船に乗せてくれるんだよ」
 天田が怪訝そうな顔で宙太を見ていた。
 「お父さんの仕事の手伝いをやるんですか」二人が尋ねた。
 「うん、仕事手伝える様になるとね、船に乗せてくれるんだ。そしたらね、ずっと南の方まで行けるから、南十字星が見られるんだよ」

 「えーそうかあー、力田君は星座が好きだったんだよね。南十字星を見るために船に乗れるように運動するんだ。すごいねー」
 天田が感心した様に言った。
 そして「僕も一緒に乗せてもらいたいな。そしたら南半球の色々な星が見られるね。きっと、いい曲が作れるだろうね」
 「それはいいですね。その時は私も一緒に乗せて下さいね。きっと素晴らしい発想が湧いてくるかも知れない」一石が言った。
 「うん、そうしよう。三人一緒だったら、父ちゃんもきっと喜ぶよ。約束だよ」
 宙太ははしゃいだ様に言った。
 三人は笑いあった。

 いよいよ午後の試合が始まった。

 つづく