翔べ宙太(みちた)!75  表彰式・宙太の夏


 周りの観衆は、どうした、一体どうして、ここで投げるんだといった風にざわめき出した。
 大空名人と教授がそばに来た。
 「皆さん、どうしてここで投げたのか、私のほうから、少し説明させてもらいます」
 大空名人が言った。
 「宙太君がここに手をつけた後は1手1手必然です。中に取り囲まれていた四つの白石が絶妙に働いて・・・宙太君」そう言って、名人は宙太を見た。
 「はい、両コウです」
 「一石君」名人は一石を見た。
 「はい、両コウで白生きです」一石は答えた。
 「この後は黒がこう打つと白こう打ちます・・・・」
 名人は数手一人で並べて「この様に両コウになって、白に死にはありません。ここに1つだけ離れている白石が最後に絶妙に働きましたね、宙太君の渾身の読みきりでした」

 「力田宙太君の中押し勝ちです。これで三人が8勝1敗と同率で並びました。優勝の行方は関係者で協議しますので、皆様少しお待ち下さい」係りの人が言った。
 大会関係者と、大空名人が参考人として協議を始めた。
 三人が8勝1敗、そして三人それぞれが三つ巴の1勝1敗の成績の為に順位が付けられない結果になってしまった。
 「大変僭越ですが」そう前置きして大空名人が言った。
 「一石君、天田君、力田君、誠に奇跡の少年達です。私は心から感動しています。この少年達に序列を付けるなんて、そんな役目はきっと神様でもご辞退なさるでしょう。三人同時に優勝ということでいかがでしょうか。この度のことは、将来永遠に語り継がれる伝説になるでしょう」
 名人の言葉で三人同時優勝が決定した。

 「選手の皆様、会場のご来賓の皆様、日本青少年囲碁協会主催の第1回全国青少年大会の優勝者を発表致します。大阪代表一石有斗君、及び東京代表天田明君、九州代表力田宙太君、三人が8勝1敗と同率になりました。しかもそれぞれの対戦成績がそれぞれ1勝1敗どうしとなり序列がつけられません。従いまして、大空名人の進言を参考にさせて頂きまして、三人優勝ということになりました」
 係りの人の発表が終ると同時に会場全員が一斉に拍手を送った。
 「宙太、良かったな」大介が宙太の肩に手を置いて言った。
 「宙太、良く戦った。良くやった」草心も宙太の肩に手を置いて言った。

 宙太を真ん中に三人並んで、会場中央の表彰台をじっと見ていた。
 「宙太君、ありがとう。私は宙太君にとっても大事な事を教わったよ。一生の記念になる。宙太君は強かった」一石がそばに来て、宙太に握手を求めた。
 「宙太君のおかげで素晴らしい曲が書けたよ。ピアノで弾いて録音できたら送ります。またネットで打ちましょうね」
 そう言って天田がそばに来て握手を求めた。
 「一石君、天田君、ありがとう。俺二人に出会えて本当に良かった。本当の友達になれて、ものすごく嬉しい。今日のことはもう終ったけど、三人の仲良しはこれからが始まりだね」
 「一石君、天田君、宙太と仲良しになってくれて本当に有難う」
 大介が言った。
 「一石君ありがとう。天田君ありがとう。宙太がここまで頑張ってこられたのは、君達二人のおかげだ。これからも宙太をよろしくお願いします」
 草心が二人に丁寧にお礼を言った。

 表彰式が終って、記念撮影になった。
 1つしか用意していなかった金メダルが、最年少の宙太の首に掛けられていた。一石と天田には後で同じものが送られるということになった。
 宙太を真ん中に右と左に一石と天田が三人正面に座った。その両横に選手達が一列に並んだ。宙太のすぐ後ろには大空名人が三人を包み込むようにして立った。
 両脇に日之輪教授と大介、その隣に草心と並び、全員50名ほどが勢ぞろいした。
 宙太は落ち着きが無かった。
 『今日はもう無理かなー明日になるのかなー早く終らないかなー』そわそわしていた。
 「皆さん、もう少し楽に、リラックスして下さい」
 カメラマンが言った。
 皆は少し緊張していた。
 その時、会場の外から宣伝カーの音楽が流れて来た。
 「セカイはひとつ・・セカイはひとつ・・」スモールワールドの曲だった。
 「あっー和尚さん」突然、宙太は大声を出して、草心を振り返った。全員何事かと宙太を見た。
 「ディズニーランドが呼んでいる。早く行こう」
 会場は大爆笑に包まれた。
 「はい、皆さん、こっち向いて、行きますよー」「バシーッ」

 宙太の夏は終った。
 宙太の一瞬の少年時代は過ぎ去って行った。

 つづく


 予告! このあと誰も知らない宙太、一石、天田の物語がある。
      大空名人、突如の引退! 優勝者3人に大空名人の引退記念対局が用意された!
      3人の少年達は名人といかに戦い、そして、その結果は!
      大空名人の口から意外な言葉が放たれる!!