翔べ宙太(みちた)!79  一石有斗の夢


 宙太は驚いた。凍りついたままじっとしていた。
 「力田君、天田君、一石君、このテレビ見ていますか。大空名人のたっての希望です。是非実現して下さい。テレビを見ていたらすぐに連絡下さい」
 司会者の声を聞いて、宙太は、はっと我に返った。
 そして家を飛び出した。
 全速力で天道寺へ向かって走って行った。
 ジュピターがワンワン鳴きながらついて来た。

 「和尚さーん」大声で叫びながら門をくぐった。
 ジュピターも走って門をくぐった。ちょうど5年前とそっくりの光景だった。
 「どうしたんだ、宙太、何があったんだ」
 草心は驚いて玄関から出てきた。
 「和尚さん大変だ、大空名人が引退するんだって、それでね・・・」
 宙太はハァハァ息をしながら、とぎれとぎれに苦しそうに話しを続けた。
 「それでね、僕と一石君と天田君と打ちたいんだって・・・」
 宙太は苦しい息を我慢しながらやっとの思いでテレビのいきさつを話した。
 「そうか、名人が引退の記念と言う事で、三人と打つのか。宙太これは大変名誉な事だ。最初で最後の機会だ。是非返事しなさい」
 「はい」宙太はやっと落ち着きを取り戻し始めた。

 名人の引退記念対局のことは、たちまちの内に計画され実行に移されることになった。
 三人の青年の春休みの内にということで、3月の最後の日曜日となった。
 場所は東京の武道館。
 対局の日が近づいて来た。
 宙太は母の恵美と草心と三人で上京することになった。久しぶりに一石と天田の二人と再会できるかと思うとワクワクした。

 前日はホテルの一室で久々の再会を祝って小さな懇親会が開かれた。
 大空名人、日之輪教授をまじえて三人の青年と草心、それに宙太の母親、数名の囲碁界の有志が集まった。
 有為有る三人の青年に将来の夢を語ってもらおうという主旨である。
 進行係りの女性が口火を切った。
 「ここに三人の素晴らしい青年と大空名人、日之輪教授、それに天道寺の秋月草心さんはじめ多くの方々に集まって頂きました」
 「まず、それぞれの将来の夢を語っていただいて、それについての皆様の感想を伺うと言う形をとって座談会を行なってゆきたいと思います」
 「えーと、じゃまず、三人の中で一番のお兄さんという事で、一石有斗さんから伺いましょうか」

 「一石君は将来何を目指していますか。やはり数学者でしょうか」
 司会者が一石の発言をうながした。
 「私は数学者としての職業は考えていません。数学は一通り終っていますから、大学に行ったら環境工学を学びます」
 「環境工学を勉強される目的はどういうところにありますか」
 司会者が言った。
 「私は地球の模型を造りたいと思っています。例えば、富士山を3.8mに縮めると、日本列島は約2kmになります。同じ1000分の1の縮尺で地球を縮めると地球の全面積は約40km×40kmの敷地があれば十分に出きるんですよ。そこには地球上のすべての自然を同じ比率で縮小して海も山も川も谷も作るんです。人間は約1m70cm位ですから、そこでは神になれるんですね。人間はアリみたいに小さいですよ。そうすると地球の自然と言うものが、いかに大切でかけがえの無いものか実感として解かるんですね。全体を見ることが出来るんですよ。現実は自分の周りしか見えないですね。だから全体の環境が大事だといっても、実感として受け止めて努力することが出来ないんです。地球環境全体を実際の通りに作って、そこでの自然の荒廃、大気や水の汚染状況など現実のまま作りだすんです。そしたらそれを見た人間は神の目で地球を見ることができるんです。アリみたいに小さな人間が勝手な事をして自分が作った最高傑作の地球を汚くしてしまったら、怒るでしょう。その為には非常に大雑把な計算ですが、1kuにつき500億の費用として、海の部分を取除いて全体では24兆円あれば、できるんですね。どこかの国の砂漠を使うと土地は簡単に間に合いますね」
 「とてつもなく、大きな夢ですね。素晴らしいです」

 「次に天田君、当然音楽大学へ行って更に作曲の道を究められると予想しますが、いかがですか」
 「はい、それも考えましたが、今は大学へ行くつもりはありません」
 「えーっ、音楽大学へ行かないんですか、又どうして?」

 つづく