翔べ宙太(みちた)!80  天田明の夢、力田宙太の夢


 「はい、私はこれから地球の音楽を楽譜に写したいんです。例えば、日本だったら太平洋の打ち寄せる波の音、日本アルプスに降る雪の音、秋の中秋の名月の煌々と輝く月の光の音、世界に目を向ければ、グランドキャニオンを吹きぬける風の音、さらにはヒマラヤ山脈をも越えると言う渡り鳥の羽ばたきの音、南氷洋に泳ぐ鯨の親子の息吹の音、そんな音を全部楽譜に写して地球の交響曲を作りたいと思っています」
 「それは、すごい、きっとモーツアルトやベートーベンにも劣らない、素晴らしいものができるでしょう」日之輪教授が言った。
 「そうですか、それは素晴らしいと思いますが、天田さんほどの人なら、音楽大学でさらに優れた音楽を学べば将来の道は輝かしいものが開けるのではないですか」
 司会者が大学へ行かないのはもったいないと言った感じで話した。
 「大自然の音は神が創った音楽です。神の音楽より優れたものが、どこにあるのでしょうか。しかしながら、今は自然が破壊され汚されて、その音楽の美しさが失われつつあるのです。今すぐとりかからないともう永遠に失われて二度と神の音楽を聴くことは出来なくなります。今のうちにです。音楽大学の教室で学ぶ時間の余裕はありません。それに大自然に勝る教師はいないと思います」
 「その通りです。先ほどの一石君といい天田君といい、私達凡人が考えない事を言ってくれました。素晴らしい意見です」
 日之輪教授が言った。

 「天田君と一石君に素晴らしい将来の夢を語ってもらいました。最後になりましたが、力田君は将来どんなことをしたいと思っていますか。以前伺った話だと漁師になりたいと言っていたそうですね。どうしてかと尋ねるといつも父ちゃんと一緒に居られるから、父ちゃんの乗っている船に乗りたいと、そして南に行ったら南十字星が見られるからと言う話でした。そしたら『母ちゃんはいつも一人ぼっちで淋しい思いをするよ』とその話を聞いてた人が言ったら、ビックリした顔して、『そうか、自分のことばかり考えて、母ちゃんのことを忘れていたと真剣な顔になって、そしたら小さな船を買って近くの海で父ちゃんと二人で漁をする、そしたら毎日三人一緒にいられるから』と言う話をしたそうですが、今でもそうですか」
 皆が笑っていた。
 宙太も笑いながら「そんなこと言ってましたか、良く覚えていないですけど。今でも漁師になる夢は捨てきれていません。でも最近強く思うことは 僕は小さいころから、天道寺で遊んでいたから、そして和尚さんともずっと今まで一緒だったから、仏教は空気のようにそこにあるんです。宗教は人の心を平和に豊かにする為にあると思うんですけど、その宗教の違いによって色々な差別や争いも起きていますね。どうしてそうなるのか、そしてその様な争いを無くす為にはどうすれば良いか、そう言ったことを学びたいと思っているんです」
 「その為には、仏教以外には日本古来の神道から初めて、キリスト教、イスラム教等世界の主な宗教を学びたいと思っています。今からその環境に入ってじかに勉強した方がいいと思っているんです。また世界には貧困が無くなりません。でも私は争いと貧困は人間の力で無くすことができると信じています。それには人間の知性より心が一番大きな要素を占めているんじゃないかと思っています。世界の三大宗教と日本古来の神道を学べばそこに人間の心の奥に流れている、根本的なもの、言葉で上手く言うのは難しいんですが、人種や民族を越えて流れている、神様に授かった魂の様なものが分る気がするんです」
 「あらそいは現実的には自分のことや自国の主張を譲らないから起こるわけです。貧困は人間の欲が一番の原因です。その様な問題を解決する為には心を今より少しずつ皆がやわらかく広くしてゆけば、すむことです。人間は成長するにつれて知性はみがかれてゆきますが、心は反対にだんだん硬くなってゆくみたいなんです。でも皆は自分の心が固くなっていることには気が付かなくなって、相手や相手の国ばかりが、固くなっていると思うみたいなんですね。それで争いや戦争が絶えないんですね。貧困も同じです。頑張った人、力のある人が恵まれることは、いいです。でも頑張った人も力のある人も半分は周りのおかげの様な気がするんですよ。でも普通人間は100%自分の力だと思うみたいで、自分が周りから知らず知らず助けられていることに、気が付かないみたいなんです。そこが貧困や争いの一番の原因の様な気がします。だから皆がその様なことを感じ取って、ほんの少しばかりでいいから、他の人へも譲るような気持ちがあれば、その気持ちを実戦できれば、貧困や争いは簡単に無くなると思うのです。その為には私はどうすればいいか、この様な宗教を学べば、その中から答えが見つかるような気がするのです」

 「素晴らしい、その通りです。全く素晴らしい。力田君だったらできる。そうなんだよ、そういう人間が人類には必要なんだよ。アインシュタインは統一理論を完成して宇宙の真理をシンプルな法則で解明しようと挑戦したが出来なかったけど、それと同じように魂の統一理論ができれば、21世紀の人類は幸福になれるんだよきっと。私は三人の将来の夢を聞いて、心から感動しています」
 日之輪教授は声を震わせ感動した面持ちで言った。
 さらに日之輪教授は続けた。
 「三人は期せずして全く同じ次元の事を考えているわけです。突き詰めれば人類愛ですよ。それぞれ三人の持っている才能の違いにより力を発揮する分野は異なりますが、そこがまたとても素晴らしいところなんですね。一石君が作った地球モデルに天田君の作曲した神の音楽を流し、力田君が魂を入れる、そこに21世紀の人類は幸福への道しるべを見ることになるのですよ。これは是非、いや絶対に実現させましょうよ。皆で協力し合って、少しずつ力を結集すれば、20年後は完成するじゃないですか。私もその地球モデルの完成を見ない限り死ねませんよ。いやー素晴らしい、今日は素晴らしい事を聞きました」
 三人の話で場は盛り上がった。
 「明日が楽しみです」「頑張って下さい」めいめいが挨拶を交わし、去って行った。

 つづく