翔べ宙太(みちた)!H  詰め碁


 宙太は熱心に聞いていた。
 何せ星座の話だから、その理解力は草心の想像を超えていた。

 そして草心は、この時とばかり「少し練習してみようか」と言って、簡単な詰め碁をさらさらと並べて見せた。

 「ほら、この黒の星座を白の星座が取り囲んでいるだろ、この黒の星座にブラックホールが2つないと、この黒星座はこの宇宙から蒸発して消えてしまう」
 「宙太は白星座の神だ。この悪の黒星座をこの宇宙から消してしまうには、白星座の神は、どこに打てばいいかな」

 宙太は首を前に曲げて、じーと見つめていた。

 草心は宙太のこんな真剣な顔を初めて見た。
 できなくて当然だ。2、3分が経った。

 宙太はつまんだままの白石を、そっと、しかし確信に満ちた表情で置いた。
 草心が次の手を打った、すかさず宙太も打った。

 初心者用だから、難しくはないが、宙太には全くの初めてである。
 次の問題、次の問題も何なく解いた。

 草心は驚きを通り越して、嬉しくなってきた。

 「和尚さん、ブラックホールの研究って面白いね」
 「そうか、面白いか」草心はそっと詰め碁の本を星座の本の上に置いた。

 5時のチャイムが聞こえた。
 ジュピターは外で走り回っていた。
 「和尚さん、さようなら、この本貸してね」
 そう言って一冊の本を右手にしっかりと握って、いつものように縁からそれっと言って跳んだ。

 草心は碁盤の横を見た。
 「おーい、宙太、星座の本を忘れているぞ」
 「あー、和尚さん、俺全部覚えているからいらないよ。和尚さんに貸してあげるから、勉強しといて」
 そう言って門から飛び出していった。

 またしても、草心はポカーンとして、星座の本を持ったまま呆然としていた。


 宙太はその夜夢を見た。
 ジュピターと二人で、夜空を飛んでいた。
 宇宙の中にあって、大きな明るい星がいっぱい輝いていた。
 屋根の上から見る星座よりも何倍も大きく明るかった。
 「わー、ジュピター、すごいな、きれいだね」
 ジュピターはワンと鳴いた。
 遠くの方に船が見える。一人の男が網を上げている。
 とても疲れた顔をして、苦しそうに息をしながら、必死で網を上げていた。
 宙太は走って行った。男の顔がハッキリと見えた。
 「あっ、父ちゃんだ、父ちゃーん、宙太だよー」
 そう言いながら、宙太も必死で駆けていった。

 突然、大きな網が目の前にバサッと壁のように大きく開いたまま、降りてきた。
 一瞬、宙太は立ち止まった。網をどけて進もうとするけど、その網はびくとも動かなかった。
 「とうちゃーん」
 宙太は必死で叫んだが、父ちゃんには聞こえないのか、宙太の方を見ようとはしなかった。
 ただ苦しそうに、一生懸命に網を上げていた。
 宙太の前に立ちはだかったのは、網かと思ったが、そうではなかった。
 青白く光る無数の線が、網の目のように交差していた。
 やがて、その線の交点の上に、赤く光る星と青く光る星が現れて、複雑に組み合わさって、二つの星座になった。
 そして、どこからか声が聞こえてきた。
 「力田宙太、お前のお父さんに会いたければ、そこにある赤い星座をこの宇宙から蒸発させろ。そしたらその間を抜けて、お父さんの所へゆけるぞ」
 「お前のお父さんはお前たちのために必死で頑張っている。早く行ってお父さんの手伝いをしてやれ。このままだとお前のお父さんは、疲れきって死んでしまうぞ」
 「えっー、そんな、どうすれば赤い星座を蒸発させられるの」
 「考えろ! 考えろ! よーく考えろ!」そう言うと、声は聞こえなくなった。

 辺りは真っ暗い沈黙の世界が続いていた。
 星座の向こう側に必死に頑張っている父の姿だけが、ハッキリと浮かび上がっていた。
 宙太はどうしようと言う気持ちでいっぱいで、気が動転していた。
 ワンワンと強い声でジュピターが鳴いた。
 そして宙太を怖い顔して睨んでいた。
 再びワンワンと宙太の目を見ながら、吠えた。
 宙太ははっと我に返った。
 ジュピターが宙太を励ましたのだ。
 「そうだ、しっかりしなきゃ」宙太はじっと赤い星座を見た。

 「あっ、こんなこと、何か始めてじゃないみたい。何だろう? どっかで一度やった事があるみたいだ」
 宙太はじっと考えながら、思い出そうとしてジュピターに話しかけた。
 「初めてじゃないよね、ジュピター」ジュピターはワンと鳴いた。
 「どこかでしたことがあるよ」
 ジュピターはウーウーウーと言いながら、さかんに遙かかなたに見える地球の方へ顔を向けていた。
 「あっ、そうだ、和尚さんの所でやったんだ。ブラックホールだね」
 と言うと、ジュピターは嬉しそうに、ワンワン、ワンワンと鳴いた。